現時点ではインドの人口の90パーセント以上、12億人以上が自身の顔写真、両手のすべての指の指紋、両眼の虹彩の情報を登録し、アドハーによる身分証明カードを手に入れています。5歳児までは登録できないため、登録資格のあるほぼ全員が登録していることになります。

アドハーが導入される前、インドにとって最大の問題は本人確認でした。たとえば「山田太郎」という日本人が、日本国内に1万人くらいいたとします。それぞれ、年齢、居住地、職業などによって本人確認ができますから、銀行口座を開く場合でも、他人が勝手になりすますことは防げます。

しかし、インドの場合、人口は約13億人です。グルチャラン・ダスは珍しい名前ですが、それでも同姓同名が何万人いるのか想像もつきません。ガンジー、ネルーといった姓なら100万人以上、いるでしょう。

インドには銀行口座を持っていない人間も多かった。また、出生証明書の所持者は全国民の半分以下に過ぎなかったし、納税者はさらに少数で、100人に3人程度でした。

124億ドルの不正支出がなくなった

もっとも大きな問題は福祉の金や補助金を給付する実務でした。銀行振り込みができないから現金で本人に渡すしかない。しかし、本人確認ができないから、誰に渡していいのかわからない。本人確認ができたにせよ、もらうほうはいくらもらえるかわからないのだから、中間で搾取が行われる。

2000年当時、インドでは低所得者向けの食料や肥料の配給の4分の1が不正に支給されていたという事実もあります。公的な身分証明書を所持していない人は、社会生活に参加できる機会が少なかったのです。

アドハーが導入された結果、銀行口座の開設件数は4億口座を超えました。インド人女性が金融機関を利用する割合も27パーセント増加し、携帯電話の利用率も導入前に比べて倍増して、実に人口の79パーセントが携帯電話を利用するようになりました。

そして、貧しい人たちに渡る給付金が銀行振り込みになったことで、中間搾取がなくなり、汚職や不正も減りました。デジタライゼーションのおかげで、政府は124億ドル(約1.37兆円)の不正支出をなくしています。

汚職、一部の人間による不正受給はインドではなくならない問題とされていました。しかし、デジタライゼーションで撲滅することができたのです。

「アカウントアグリゲーター」による信用調査

デジタライゼーションの一環として2019年末から、アカウントアグリゲーターという新制度が始まりました。本格的になるのは2020年3月からで、運営の主体はインド政府と中央銀行です。