なぜ楽観的な人では冠動脈疾患の発生率が低いのだろうか。ストレスの受け止め方の違いによるものだろうと、カワチ教授らは考えている。これはイヤなことが起こった場合、楽観的な人は「それは、たまたま起こったもので、すぐに終わってしまうだろうし、おそらく今回限りのことだろう」と考える。だから、気持ちを切り替えることができる。一方、嬉しいことが起こった場合、楽観的な人は「それは自分のせいで起こったもので、しばらく続くだろうし、ほかにも良いことが起こるだろう」と考えるからだろう。

長生きできる性格と長生きできない性格

これまでさまざまな研究から、特定の病気について「なりやすい性格」があることがわかっているが、三大死因の1つである心疾患と性格の関わりをもう少し見てみよう。

アメリカの心臓内科医フリードマンが提唱した心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患になりやすい性格が有名だ。フリードマンによると、冠動脈疾患になりやすい性格の人は、「目標達成への意欲が強い」「競争心が強い」「周囲からの評価を求める」「1度に多くのことをやろうとする」「性急でせっかち」「精神的・肉体的に過敏」、容易に「敵意を燃やす」傾向があるという。これらは、英語で表現した頭文字をとって「タイプA」と名前がつけられている。

この「せっかちで競争心が強い」タイプAは、どのくらい冠動脈疾患のリスクが高いのか。カリフォルニア州で働く39~59歳の男性3154人を対象に、8年半の間に心臓疾患の発生率がどれくらいだったかを調べた結果では、タイプAはそうでないタイプに比べ、心筋梗塞の発生率で2.12倍、狭心症では2.45倍も高かった。

競争心が強い人は冠動脈疾患の発生率が2倍以上に

さらに、フリードマンの研究では「人の悪口をよく言う」人も冠動脈疾患のリスクが高まるとしている。人の悪口をよく言う人には競争に勝とうという気持ちが強いタイプが多く、人を蹴落とそうとする敵がい心やライバル意識が非常に強いことが、発症のカギと考えられている。その理由としてタイプAの人たちは、かなり交感神経系が強い。交感神経が強いと血圧が上がりやすかったり、心拍数が速くなったりする。これが動脈の血管にストレスをかけ、その結果動脈硬化になるリスクが高くなる。さらに、血管の中で血液の凝固が起こりやすくなる。そのために冠動脈が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなる。

夫婦関係がよいと長生きできるのか

夫婦関係が冠動脈疾患の発症に影響を与えることもわかっている。大阪大学の磯博康教授らの研究によると、結婚している男性に比べて、離婚した男性の死亡率は1.5倍に増えた。死因別に見ると、心筋梗塞は1.7倍に増えたが、がん死亡は増えなかった。面白いのは、離婚による死亡率の上昇は男性だけで、離婚あるいは夫に先立たれた女性と結婚している女性との間では、寿命にほとんど差がないことだ。

結婚生活の不満は動脈硬化を起こす要因に

これは、日本人特有の傾向で、欧米であると、離別・死別した夫婦はどちらも死亡率が上昇するのだが、日本人の場合、離別・死別しても女性の死亡率は変わらない。なぜ日本人の夫婦はそうなのか。あえて説明しなくても、皆さん身に覚えがあるのではないか。