こうなると問題は「何が貧困を不幸にするか」だ。データを大きい順番で並べたとき、真ん中の値を中央値という。所得で考えると、平均年収に比べて、年収の中央値はより実感に近い。厚生労働省が発表した2018年度「国民生活基礎調査の概況」によれば、17年の所得の中央値は423万円となっている。一般社会で「1000万円」は、この倍以上なのだからひとつの「大台」と評価すべき年収だろう。

猫組長氏
猫組長氏

当たり前だが、そうした「大台」層は「年収1000万円」なりの生活を構築する。住宅ローン、車両代、食費、子どもがいれば教育費と「生活の固定費」もまた高額ということだ。

実際のところ高額所得者も「綱渡り」をしているということになる。「綱渡り」ができるのは「生涯自分の生活が維持される」という、社会に対する信頼感がバランサーとなっているからだ。

ところがこの「信頼感」はコロナ・ショックによって崩壊した。それどころか、深刻な経済的ダメージを負う富裕層も多く生まれるだろう。

ここがポイントだ。

「持たざる者」が「持たなく」なることは、その人の日常である。だが「持てる者」が「持たざる者」へ移転することは、天変地異に遭うごとき「非日常」の訪れだ。つまり現状維持の崩壊こそが「貧困」を「苦痛」に変える要因ということが導き出せる。その「苦痛」を「地獄」に変えるのが、自分の生活水準に対する愛情だ。

持たざる者は不変、持てる者は転落

投資の世界には「損切り」という、資産防衛のスキルがある。能動的に最小限の「損失」を出して売ってしまうことだ。高騰の地合に乗って信用買いを続けてきた投資家が、暴落に転じたときも保有した株を抱え続けることは損失を増やすこと以外の意味を持たない。できるだけ損失が小さいうちに保有株を売る「損切り」を実行するのが最良の方法なのだ。

ところが多くの個人投資家にとって自分のマネーに対する愛情は強く、わずかな損失をためらう。結果ボヤで済むはずの火災が、人生を全焼させることになる。

急激な引き潮は、巨大津波の前兆だ。現在富裕層のあなたの収入が予想外に減り続けていったとき、一番危険な行為は「再上昇」を待つことだ。待っている間に蓄えていた資産は溶け、支払い切れないほどの借金が残るだろう。危ないと感じたときには「損」をしてでも、即座に保有資産を整理するべきだ。その後で、生活の規模をより低いものへと組み替えることが最適解であることを忘れてはならない。

自分のマネーに非情になれない者は投資を行うべきではないと私は考えている。世界恐慌クラスの異常事態にあって、生き残るために重要なことも自己資産に対する非情さだ。恐慌の時代にあっては生活水準の改悪を余儀なくされる「持てる者」と、不変の「持たざる者」の優位性が揺らいでいることがわかるだろう。