一時的な痛みを伴う改革に着手できない代償

ファーストリテイリングは、韓国のファンダメンタルズ(経済の基礎的な条件)の悪化にも直面している。それに加え、同社は反日感情が追加的に悪化するリスクにも備えなければならない。

当たり前だが、経済環境が悪化すれば、失業が増え、社会の不満が高まる。2018年3月以降の米中通商摩擦やコロナショックの発生によって、韓国の輸出は大きく減少した。輸出依存度の高い韓国経済は縮小し、2020年はマイナス成長が不可避の状況にある。

また、文氏は最低賃金の引き上げによって、世論の不満を解消しようとした。その結果、企業経営は悪化し雇用が失われ需要が落ち込み、ファーストリテイリングの韓国事業は悪化した。

経済の停滞懸念が高まる状況下、本来であれば為政者は規制緩和や構造改革を進めて経済の実力を高めなければならない。しかし、労働組合や市民団体を支持基盤とする文大統領は、一時的な痛みを国民に与える改革に着手できない。

その代わりに、世論の不満のはけ口として、同氏は反日姿勢を強めてきたように見える。昨年夏場など、韓国経済の先行き懸念が高まる中で、文大統領が反日姿勢を鮮明に示すと、大統領支持率が上向くことが確認された。

その事実を踏まえると、ある意味、文大統領は、経済運営の失敗に不満をためこむ世論からの批判が自らに向かわないように、国内の反日感情を煽ったと解釈できる。そうすることで、歴史問題などに憤りを抱え続けてきた人々の心理に寄り添う姿勢を示し、経済運営の失敗を糊塗しようとしたといっても過言ではない。

コロナショックによって世界的な貿易取引の減少により、韓国の雇用・所得環境は悪化し、社会の閉塞感は一段と高まりつつある。不満解消のために、文氏は反日姿勢を重視せざるを得ない状況が続くだろう。経済と消費者心理の悪化リスクを避けるためにファーストリテイリングはGUの韓国店舗の閉鎖を決めた。

日本を重要視する韓国の若者

今後の展開を考えると、短中期的に日韓関係が修復に向かうとは想定しづらい。5月以降、韓国では集団感染が発生し、ソウルを含む首都圏では外出自粛が再要請された。先行きの経済への懸念が高まり、6月上旬まで2週続けて文大統領の支持率は低下した。

その状況に対応するために、文大統領が反日姿勢強化のカードは手放せないはずだ。目下、本邦企業が韓国事業の立て直しを目指すのは難しいだろう。

その一方で、韓国の若者や経済界では、反日姿勢を取り続けたまま韓国が経済の安定を目指すことはできないとの見方が広まりつつある。若い人の中には、政権とは対照的に日本を重要視する声がある。

就業機会が乏しい韓国よりも、日本の方が相対的にチャンスに恵まれていると考える学生は少なくない。わが国に留学する韓国人留学生の中には、本邦企業への就職を希望する人が多い。

また、経済界では、日本との関係を抜きにして韓国が経済の安定を目指すことは難しいとの見方が多い。事実、韓国の半導体産業は、わが国の素材、人材、資金に依存している。3月中旬のように世界の金融市場が大混乱に陥ると、カントリーリスクの高い韓国からは一気に資金が流出してしまう。