諸外国では、政府が国民に現金を給付するという、通常では考えられない対応を迅速に実施しました。アメリカでは、大人1人(年収約808万円以下)に現金約13万円、子供1人に現金約5万5000円を支給することをすでに20年3月下旬に決めました。ドイツは自営業者に3カ月で最大約108万円、フランスは最大約18万円、イタリアやスイスでも一定額を支給する方針が打ち出されています。カナダは、新型コロナの影響を受けた人全員に月約15万円を給付するほか、学生ローンの返済も3カ月猶予するとしています。

経済学者 竹中平蔵氏
経済学者 竹中平蔵氏

一方、日本が全国民に一律10万円の現金給付を決めたのは事態がすでに深刻化した20年4月16日夜と、大幅に出遅れました。諸外国に比べて規模が小さいうえに対応が遅いと国民からは批判が上がりましたが、批判は正しいのです。

このままだと経済の悪化がとまらずさらなる失業者が出ますから、追加の対策を行う必要があるでしょう。都内の某タクシー会社が業績悪化で、約600人の運転手などを解雇する方針を示すという事態もすでに起きています。

政府が所得制限などは設けず、とにかく国民全員に対し10万ないし30万円を一刻も早く配る方法を考えるべきでした。例えば布マスク2枚と一緒に小切手で配ればよかったのです。そして、後からマイナンバーを使って確定申告してもらい、新型コロナの影響を受けていない層や富裕層からは返納してもらう。「とにかく配って、後から返す」という迅速な対応を、マイナンバーを使って行うべきでした。また、今後、さらなる経済対策が必要となる場合はマイナンバーの所持を条件に一律給付をすればいいでしょう。

マイナンバーの普及をこれを機に進める

そうすれば、マイナンバーが普及してデジタルシフトが進むというメリットもあります。新型コロナが長引けば、これからいろいろなことをデジタルで行わなくてはならない未来がやってきます。究極的にはインターネットで投票などもできるようにしなくてはいけません。一カ所に人が集まり、同じ鉛筆で投票することほど危ないことはないでしょう。ネットでの投票を実現させるためには、個人認証制度が必要です。日本では、そのためにマイナンバーを作ったのです。ちなみにネット投票が実現すれば若い世代の投票率が上がり、政治の中身も変わるでしょう。

インドでは個人認証制度が進んでいて、総人口約13億人のうち12億人が指紋と虹彩だけで認証ができます。デジタル社会においては、個人認証システムこそがとても重要で、それが日本の場合はマイナンバーなのです。