頭の中で不安と期待がグルグルと入り混じった中、あえて期待だけを放り込み、不安を強引にかき消すようにこう決意した。

「一流のレストランを作ろう! 障がい者が頑張って働いてますから、お涙頂戴で来て下さいではアカン。一般市民が利用できる障がい者施設を……いや、障がい者施設を作るのではなく、レストランを作るんだ!」

実は、出向いた飲食店の中で最も魅了されたのが、あるフレンチ料理店だった。ひと皿、ひと皿、料理の味と喜びが計算され尽くしたコースに、常にあたたかく丁寧に接するスタッフ、食器や椅子にまで高級感を演出する空間……その全てに酔いしれた帰り際、全員がこう確信したのだった。

「フレンチしかない」

一番素敵と感じた場所をみんなで求めてみたい

どうせなら、自分たちが一番素敵と感じた場所を、みんなで一緒に求めてみたい。夢に向かって突き進みたい。それが全員の結論だった。振り返れば、飲食店を数多見学し続けた時間は、自分たちの中に知らず知らずのうちに生まれていた「無理じゃないか……」という諦めの感情を打ち消すための時間でもあった。

何よりも後押しとなったのは、幸運にも、そのフレンチレストランのシェフが働きに来てくれると決まった事だった。

「夢のフレンチレストラン」への道は、現実的に動き出す。場所を決め、料理内容を決め、コンセプトを決め、建設計画を立てたところ、肝心の建設費用は2億4000万円を計上してしまう。これまでの積立金では足りず、国・京都府・舞鶴市からの補助金に加えて、借入金で賄うしかなかった。準備に大わらわな職員と並行し、働くスタッフも、接待やお皿の扱いなどの指導を受け、それぞれができる範囲で準備を重ねた。

「障害がある人が働くのは怖い」と住民が反対

だが……。オープンまで半年を切った矢先に突然、建設予定地の住民から反対運動を受けたのだ。「障害がある人が働くのは怖い」「どんな事があるかわからん」。西澤らが幾ら誠心誠意、説明を尽くしても、剣突を食らい心無い言葉ばかりが耳朶を打った。

障がい者に関係する施設建設への反対運動は、全国津々浦々で同時発生している。誰もが、障がい者施設の建設には反対ではなく、社会的意義も理解できるという。だが、決まって「それが、どうしてうちの地域なんですか?」と反対する。意義ある施設だが、自分達の地域にできる事は許せないのだ。

念入りに立てた計画は頓挫し、新しい候補地を探すしかなかった。敷地面積、駐車場設備、近隣の店舗状況、アクセスの良しあし……。巡り巡ってやってきたのが、現在のほのぼの屋を構える場所だった。正直、駅や国道からは離れ、決して立地的に恵まれているとは言い難いのだが──。