リラックスしつつ集中できるようなイスをどう選ぶか

<strong>齋藤 孝</strong>●さいとう・たかし 1960年生まれ。東京大学法学部卒、同大学大学院教育学研究科博士課程修了。明治大学文学部教授。この2月、セキスイインテリアと共同で“没頭できるデスク”を開発した。
齋藤 孝●さいとう・たかし 1960年生まれ。東京大学法学部卒、同大学大学院教育学研究科博士課程修了。明治大学文学部教授。この2月、セキスイインテリアと共同で“没頭できるデスク”を開発した。

今の時代ほど、外を歩かないで坐っている時間がほとんどという生活を人々が経験したことはないだろう。それにプラスして多くのビジネスマンには、短い時間でより高い成果につながるようなアウトプットが求められている。いちばん大切なのは集中力であり、その集中をいかに持続させるかではないか。

「日本人にとっては農業をはじめ、立って仕事をするという形が長くありました。そういう意味では、坐り続けて仕事をするるというイス坐の型がまだできていないといえます。イスにきちんと坐ることもないし、イスの選び方も適当なことが多い」

読み進めるうち、子ども時代にもっといいイスに出合っていたら人生がまるで違ったのにと、地団駄を踏みたくなる本だ。

「単にリラックスするイスというのがあります。あるいはデザインがいいイスというのもある。しかし仕事にいいイスというのは楽で、意識がある程度前に向かうものでなくてはなりません。子どものイスでも同じで何となく買ってしまうけれど、その前に親がそこに長時間坐れるのか。一緒に過ごす時間というのは道具ではイスがいちばん長い」

集中力だけでなく身体の健康に直接影響を与えるものでもある。坐るだけで、リラックスしつつ集中できるような坐り方が得られるイスを、どう選ぶか。型がないだけに難しい。

「ポイントは呼吸が深く楽にできるか、腰を触ってみて無理な緊張がないか、あとは肩の緊張が抜けて坐っていられるか」

身体論研究の第一人者としても知られ、これまで身体感覚や呼吸に関する数え切れない著作を発表してきた。ライフワークともいえるそれらの仕事が、身体感覚の話としてはほとんど語られてこなかったイス坐という視点からこの一冊に集約されている。

「坐るということが人格的な価値と連動しているのが、坐禅の伝統であり臍下丹田の感覚です。そこに、西洋人とは違う日本人ならではの坐に対する遺産の生かし方があると思います」

腰を据えて腹を決める。腹と腰に中心があるような精神的な粘り強さをもつ。あるいは取り戻す。そのための行為として坐があり、場所としてイスがある。じつは机に関しても同じだ。

「道具が自分の味方になるかどうかは大事。一生もって動きたい机やイスに出合うというのは、勉強すること自体が身につくということです。勉強という行為が自分の味方になることであり、まさに人生が変わる。向学心というものが人間の価値を決めるという意味では、坐ることで学ぶことが自分の味方になる――そういう人生のスパイラルに入るのですから」