「脳梁形成不全」は分かっても症状の有無までは分からない

胎児診断の主体の超音波画像の精度は飛躍的によくなっていますが、それでも病気か、病気でないか、の判断に迷うことはしばしばです。病気でないのに病気のようにみえることもあります。脳の形態の評価はできても、それが生まれたあとにどういった症状をしめすかわからないことはふつうにあります。

このケースでは「脳梁形成不全」であることはわかりました。脳梁というのは脳の中心にあって、右脳と左脳をつなぐ働きをしています。事故や脳梗塞など生まれたあとに脳梁が損傷すると、認知や記憶の機能にさまざまな障害をおこすことが知られています。

しかし生まれつきの脳梁の形成不全の予後はまったく正常であるふつうの場合から、なんらかの脳の重篤な病気の一徴候である場合までさまざまあります。

妊婦さんとパートナーは、生まれてきて知的あるいは発達的になんらかの異常が生じるならば本人もかわいそうであるし、自分たちも育てていく自信がないといいます。しかし「出生前診断」でそこまでを予測する時間もすべもありません。

「なんらかの病気」があるかを知ることは土台むりなのです。まったくの正常である可能性、なんらかの病気がある可能性のもとで産むかどうかを決めることがせまられます。妊婦さんとパートナーはそういった不条理に苦しむことになります。

赤ちゃんがすこしでも異常がある「可能性」だけで中絶をおこなうのは、多くのひとがやりすぎと感じるかもしれませんが、可能性だけで中絶するひとたちも結構います。しかしこのカップルは苦しんで迷ったうえで産むことを決めました。

一度は人工妊娠中絶のために入院し、迷いに迷い苦しんだあげく、処置台のうえにのぼったところまでいったうえでの最終決断でした。

出生前診断を受けても安心は得られない

妊娠分娩にかぎらず、だれでもなんらかの不安はもっているでしょう。もしかすると情報過多の現代は、みなが一時的な強迫性障害みたいになっているのかもしれません。しかし、すこしでも安心したくて情報を得ようと「検査」をしても、求めている安心はえられません。

どうしても気になってしょうがない、なんとかしてこの不安を解消したいと医療に求めても逆の結果となってしまうことはめずらしくないのです。出生前診断の検査結果は白黒がつけられないことは多く、むしろ検査の結果が別の種類の苦しみや絶望をまねくことがあるのを知ってもらったほうがいいかもしれません。

「病気の可能性はあるが決められない」という結果に耐えられるひとは少ないのです。「安心したいから」「安心できるかも」と検査を受けるのでしたらやめたほうがいいでしょう。