本が苦手な子どもたちを惹きつける編集者のワザ

さらに『一期一会』には小説と挿絵だけでなく、「記事ページ」がある。「ネイルの塗り方」といったおしゃれ関連のハウツーや「四つ葉のクローバーの言い伝え」といったジンクス、さらには「占い」や「おまじない」「性格診断」といったコンテンツを盛り込んだページだ。

それらはストーリー中に登場する架空の雑誌やテレビ番組、もしくは登場人物の誰かが教えてくれたことという設定になっている。

『お話10コつめあわせ。』
写真提供=学研プラス
『お話10コつめあわせ。』
写真提供=学研プラス
粟生こずえ『一期一会―ちょっとの勇気。』(学研マーケティング)
粟生こずえ『一期一会―ちょっとの勇気。』(学研プラス)

そうなった理由は2つある。ひとつは、「これまで本を読む習慣があまりないとか、文章と挿絵だけだと『読む気になれない』という子たちにも読んでみてほしかったので、本をパラパラめくっただけで『興味がある情報が載っている』と伝わるようにしました」(北川氏)。

もうひとつは制作上の事情だ。

「『一期一会』は文具のキャラクター発ですが、文具のイラストレーターさんは文具の仕事もあるため、本のスケジュールに合わせて新規に描き下ろすのは難しかった。そこで、違うイラストレーターさんによる別の絵柄でも違和感なくまとまる企画ということで、ストーリーの中で『テレビをつけたらやっていた占い』『雑誌に載っていたおまじない』などの形式を採ることにしました」(北川氏)

当初は苦肉の策だったが、誌面ビジュアルに新しさとメリハリが生まれ、読者からすると、物語と自分との接点もできて親近感が湧いた。読者の感想に出てくるのはストーリーのことより、そういった実用情報についてのほうが多いくらいだという。

カジュアルな恋の話という題材、ページの「めくり」や挿絵の配置にこだわった編集、自分でやってみたくなる占いなどの実用情報が相まって「今まで自分から進んで本を読んだことがなかったけど、初めて最後まで読めた」という声がたくさん寄せられた。

一期一会』は30巻を刊行し、小学生が読む作品としては十分な量に達したとして、2014年に完結した。全盛期と比べれば動きは落ちたものの、今も売れ続けている。

当初は学校や公立の図書館には置かれなかったが、子どもたちが熱心にリクエストしたため、あっという間に並ぶようになった。今では図書館で借りて読まれることも多い。

小学生女子の「茶髪」への憧れ

ところで、イラストで描かれる女の子たちは髪の毛の色が明るく、茶髪が多い。実は文具では黒髪の女の子もいたが、明るい髪色の子が人気だったために、小説版では茶髪を多く採用した。

学研の北川氏は「編集部へ読者はがきやお手紙をいただいた方には、新刊発売のタイミングや学校がお休みになるタイミングに、商品のご案内のDMを送付しておりました。最盛期には約20,000人の登録者がいましたが、送付の際にアンケートを同送して、編集部と会って話してもいいという方を募集していました。年に4~5回、1回に2~3人程度の読者に会って話を聞かせていただきました。読者はがきやアンケートなどでお母さんの年齢をたずねると、『一期一会』の読者のお母さんには20代前半で子どもを産んだ方が多く、読者に会った際に母子でいっしょに写ったプリ(プリクラ)を見せてもらうとお母さんが茶髪だったりして。茶髪は憧れだったのかな」と話す。