英語版『武士道』が世界的ベストセラーに

2020年で50回目を迎えたダボス会議。主にテーマになったのは「環境問題」と「ステークホルダー資本主義」の2つでした。議論に参加して率直に感じたのは、「何をいまさら」という思いです。日本は昔から環境と社会の共生をやってきました。また、「三方良し」に象徴されるように、ステークホルダー全員の幸せを目指す経営もあたりまえ。株主価値の最大化を徹底する欧米の資本主義とは、もともと一線を画していました。

グロービス経営大学院 学長 堀 義人氏
グロービス経営大学院 学長 堀 義人氏

世界のビジネスエリートも、ようやくそのことに気づいたのでしょう。近年、世界では日本の存在感が増しています。たとえばダボス会議を主宰している、世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長は、「日本はG7の中で最も安定した民主主義国家」と評しました。僕もさまざまな場所で、「欧米各国で国民の分断が相次ぐ中、日本はなぜ安定しているのか」と質問を受けました。

日本が世界から注目を集めるのは、今回が初めてではありません。最初に世界が注目したのは、パリ万国博覧会のあった1900年前後です。日本が日清戦争、日露戦争に勝って、世界の人々はアジアの小さな国が軍事で列強と肩を並べたことに驚きました。東洋の神秘を解き明かそうと、当時は英語で書かれた新渡戸稲造『武士道』、岡倉天心『茶の本』、内村鑑三『代表的日本人』が世界でベストセラーになりました。