“真逆”だからこそ協業相手として向く

ただ、イスラエルのスタートアップにも弱点がある。それは「圧倒的なスピード感」だ。これは大きな強みでもあるのだが、一方で「雑になる」という弱みにもなる。商品やサービスのリリース当初に、「質」が低くなりがちになるのだ。

イスラエルのスタートアップは、品質を担保せずにとりあえず世の中に出すという考え方が強いため、不具合や故障、サーバーのダウンというトラブルは日常茶飯事。そもそも、彼らは1つのサービスや商品の品質をじっくりと時間をかけて高めていくということを苦手としているところもある。

日本企業は何度も試験を繰り返し、少しずつ品質を高めて作り込んでいくことを得意としている。加えてカスタマーサポートなど、顧客満足度の向上に影響するアフターフォローにも定評がある。

こうしたことから、イスラエル企業にとって日本企業は、自分たちの弱点をカバーできる存在としても認識されている。

イスラエル企業と日本企業は、得意な点と不得意な点が“真逆”であることが、協業の最大のメリットなのだ。

そんな日本企業の緻密さや慎重さを敬遠するイスラエル企業もある。丁寧にPoC(実証実験)をする日本企業は、その姿勢を評価される一方で、警戒感を抱かれる。その理由は、「技術を盗まれるのではないか」というものだ。

「一向に商品化に結びつかない」

商品やサービスを持たないスタートアップにとって、技術は唯一の財産だ。イスラエルのスタートアップは日本企業とPoCを繰り返すうちに、技術だけを盗まれることを恐れているのである。

彼らが日本企業に対して特にこうした警戒感を強く抱く背景には、両者の事業展開のスピードにおける違いがあるからだ。

日本企業は慎重を期すため、長期にわたりPoCを繰り返しがちだ。何度も実験を繰り返したにもかかわらず、一向に実際のサービス提供や商品化に結びつかなければ「PoCだけして技術を盗まれた」という疑念を持たれても仕方がないだろう。

実際、イスラエルでは徐々にこうした日本企業に対する悪評が立ちつつあるだけに注意が必要だ。

時間軸の違いはPoC以外でも見られる。多くの日本企業は守秘義務契約を結ぶために2カ月程度の時間がかかる。対して、アメリカの企業は2週間ほどで守秘義務契約を結べる。

日本企業は守秘義務契約を結ぶために、本社で何回も稟議しなければならないなど、仕組み上、ある程度時間がかかるのは致し方ない面もあるだろう。だが、イスラエルのスタートアップは日本企業の習慣や仕組みをあまり知らないので、こうした「スピード感のなさ」にいら立つことが多い。