たとえばテニスで、「チャンスボールを攻撃的に打つと、コートに入らないかもしれない」と弱気に考えてボールをつなげ、相手のミスを待って勝ったとします。結果的にはポイントを獲得できました。しかしそこには、「強く打とうとしない」という判断のミスが起きています。打つべきところで強く打たないかぎり、ステージが上がった試合では通用しなくなります。

一方、強くていい球を打ったけれど、コートに入らなかった。結果は失敗だったとしても、強く打つという判断自体は間違えてなかったわけです。これは「プレーのミス」と理解して、技術を修正していけばいいのです。

目に見える結果と、それをつくり上げていくプロセスは、分けて考える必要があります。結果的にミスに見えなくても、ミスがなかったかどうか検証する。そして、ミスがあれば早めに修正することが、選手が成長していくうえで極めて大事なのです。

引退を意識すると敗北の意味も変わる

現役のアスリートは敗北に強い恐怖心を抱いている傾向があります。「負けが将来の糧になる」と言われても、簡単には受け入れがたいでしょう。

私はさまざまな選手と関わる中で、「引退を意識した選手は、パフォーマンスが向上する」という特徴に気づきました。現役の若手アスリートにも、自身の現役引退はいつ、どこで、どのように……など詳細に語るワークをしてもらいます。すると、今の一分一秒を愛おしく大切なものとして認識するようになり、練習への取り組み方が変化してきます。敗北すら意味が変わって、かけがえのない経験として受け入れられるようになるのです。

これはアスリートに限った話ではありません。物事の終わりを意識していれば、失敗や敗北を経験しても、それを糧にしようという気持ちが生まれる。落ち込んでいる暇などないのです。

負けの恐怖を払拭できない選手には、「勝つか負けるかの確率は常にフィフティ・フィフティ」という考え方を伝えることがあります。たとえ打率2割の野球選手であっても、「ホームラン・ヒット」か「凡打・三振」かで言えば、確率は5割。そう考えれば、失敗や負けに過剰にとらわれずにすむはずです。最高のパフォーマンスを発揮するためには、自分ができること、なすべきことにフォーカスしてプレーするのが成功の鍵となるはずです。

(構成=長山清子 写真=AFP=時事、EPA=時事)
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