ドイツ統一という偉業を成し遂げ、さらにドイツを「欧州大陸の最強帝国」に育て上げた「鉄血宰相」ビスマルク。国際政治アナリストの伊藤貫氏は、「自助努力を怠る日本は、隷属国となる。日本に必要なリアリズム外交を徹底したのが、ビスマルクだった」という――。

※本稿は、伊藤貫著『歴史に残る外交三賢人』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

Portrait de Otto Von Bismarck (1815-1898)
写真=leemage/時事通信フォト

古代ギリシャ以来、国際政治はアナーキー状態だ

本稿は筆者が尊敬する外交家の中で、リアリズム外交(バランス・オブ・パワー外交)の実践に多大な貢献をしたビスマルクの思考と行動を素描するものである。

ビスマルクは歴史上初めて、常に数十(もしくは数百)に分裂していたドイツ民族を統一した大政治家である。しかし彼は、単にドイツ統一という偉業を成し遂げただけの人ではなかった。彼は建国後のドイツを「欧州大陸の最強帝国」に育て上げて、19世紀後半の欧州外交を牛耳ったのである。

なぜ、リアリズム外交を理解するのに、ビスマルクを知らなければならないのか? 最初に、リアリズム外交の基礎的なコンセプトを説明しておきたい。この外交の重要なポイントは、以下のものである。

(1)国際政治の本質は、古代ギリシャ・ローマ時代から現在まで、常にアナーキー――真の強制執行力を持つ「世界政府」「世界立法院」「世界裁判所」「世界警察軍」が一度も存在しなかった無政府的な状態――であった。

例えば最近の米中露イスラエルのような核武装した軍事強国が、他国や他民族に対して国際法違反の侵略戦争や戦争犯罪を実行しても、国連総会・国連安保理や世界の諸政府は、その侵略戦争や戦争犯罪の犠牲者(例:イラク、シリア、レバノン、パレスチナ自治区、ウクライナ、チベット自治区)を保護する能力を持っていない。2500年前も現在も、強力な軍事国が侵略戦争を始めると、誰もその侵略と戦争犯罪を止められない状態である。

このように無政府的で不安定な国際政治状況を少しでも安定させるため、世界諸国はバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の維持に努める必要がある。西洋では17世紀中頃から(19世紀初頭のナポレオン戦争を例外として)第一次世界大戦まで、諸大国の外交家は意図的にバランス・オブ・パワーの維持に努めた。そのため欧州諸国は、大戦争の勃発を防ぐことができた。