「揺さぶられっ子症候群」(SBS)をめぐる刑事裁判で無罪判決が相次いでいる。ジャーナリストの柳原三佳氏は「日本では赤ちゃんの脳に出血を伴うような症状が見られると、マニュアルに従って一方的に『揺さぶり虐待』を疑い、医師は警察や児童相談所に通報する。しかし、海外ではすでにSBS理論の科学的根拠は疑問視されている」という——。

「揺さぶり虐待」事件で相次ぐ無罪判決

「主文、原判決を破棄する。被告人は無罪」

2020年2月6日、午後1時半、大阪高等裁判所201号法廷の傍聴席にどよめきが起こりました。

生後1カ月半の赤ちゃんを2歳半の兄が落としてしまうという不慮の事故から5年。「事故の過失責任は全面的に母親の私にあります。それで罪に問われるのなら甘んじて受けます。でも、虐待など、絶対にしていません……」

一貫してそう主張しながらも傷害罪に問われ、一審で有罪となっていた母親(38)に、この日、逆転無罪の判決が言い渡されたのです。

西田眞基裁判長による判決文は、「揺さぶり虐待」を主張した検察や検察側証人である小児科医の鑑定意見を批判し、以下のような強い論調で結ばれました。

2月6日、大阪高裁で逆転無罪判決後の、主任弁護士・秋田真志弁護士の記者会見
筆者撮影
2020年2月6日、大阪高裁で逆転無罪判決後に記者会見をする秋田真志弁護士

「被害児の身体を揺さぶるなどの方法によりその頭部に衝撃を加える暴行が加えられた事実を認定することはできず、その暴行を被告人が加えたとの事実を認定することはできないのに、これらを認めて有罪の結論を示した原判決の事実認定は、論理則、経験則等に照らし不合理なものと言わざるを得ず、是認することができない」

判決直後の記者会見で、母親の主任弁護を務めた「SBS検証プロジェクト」共同代表の秋田真志弁護士は、「揺さぶられっ子症候群」の理論の見直しが放置されたまま、多くの保護者が刑事訴追されてきた現状について、こう指摘しました。

「行政機関、訴追機関、そして、これまでSBS(揺さぶられっ子症候群)理論に基づいて判断してきた裁判所も含め、多機関において検証しなおさなければならないと思います」