【本庶】前に柳井さんとお会いしたとき、東レをパートナーにして繊維の素材の開発からやっておられるという話を聞いて、すごいなと思ったんです。我々も異分野の人と共同研究をするとき、手に負えない問題について、どこへ行ったら助けてくれるか、あるいは教えてもらえるか。自由にグローバルに動かないと、勝ち残れません。

【柳井】さまざまな分野で極めて優れた人が、世界に10人はいます。僕は彼らに直接会って、話を聞くようにしています。

失敗をどう受け止めればいいか

【本庶】学問の研究における失敗には、2通りあります。たくさんの可能性がある中から、最も高い可能性を選んで実験をする。そして、ダメだということがわかる。これは失敗ではないんです。ひとつの可能性を消したわけですからね。

もうひとつの失敗は、イエスかノーか、結果がわからない失敗。これが完全な失敗で、意味がありません。「ダメだ」という結論がきちっと出る失敗は、一歩前進なんです。

【柳井】意味のある失敗と、意味のない失敗があるわけですね。

【本庶】もちろん私も、思い通りにいかなかったことは何度もあります。そこで重要なのは、なぜ失敗したか、準備と計画で抜けていたことがなかったか、徹底的な分析です。「あ、ここが抜けていたな」という部分が見つかれば、次はそこをきっちりやる。失敗したからすぐに別のことを試すのではなく、整理することが必要なんです。

【柳井】商売でも、準備と計画が大事です。ところが、深く考えて準備と計画を練っても、絶対その通りにはいきません。でも準備と計画の段階でいろいろな事態を考えるので、変化が起こっても「これはこうだから、こうすればいい」という勘が働いて、計画を作り変えることができます。そうやって何回も作り変えると、計画の精度が上がっていく。深く考えるという意味において、準備と計画が大事なんですよ。

【本庶】こうやればうまくいくと思ったけど、ダメだった。そこで次の手を考える。だから、失敗しても気落ちする必要はないんです。「ペケだったからポイ」とするのではなくて、なぜこうなるんだろうと考えなきゃダメです。

【柳井】結果に対して、それはどういう意味を持つのかを考える。思いがけない結果が出たとき、ひょっとしたら自分の考えていることは違うんじゃないか、と考えることが発見だと思います。

【本庶】わかります。僕も若い研究者に言うんですよ。「想定どおりの結果が出るうちは、たいした研究じゃない」と。「予想していた結果と全然違いました」というときは、大失敗か大発見なんです。ひょっとしたら我々が思いもつかない、何か大きな事実が隠れているかもしれません。