フランス人はエッチな話がお好き?

「フランス人は、エチケットとして女性を口説く」
「エッチなジョークを言えることこそ、教養の一つ」

このような国民性で知られているフランス人ですから、「艶笑話えんしょうばなし」という「笑い」のジャンルが確立しています。

文学史を紐解ひもといてみると、そのルーツは13世紀頃に流行した「ファブリオ」というジャンルにまでさかのぼるようです。

「ファブリオ」とは、庶民が主役となる「性」にまつわるあけすけな笑い話のことです。中には権力者を笑ったり、人々の愚かさを面白く描いたりした作品もあります。本来はタブー視されているような「売春」「不倫」「聖職者の性」。また「死」や「糞尿」などについても、陽気に笑い飛ばしているところが、大きな特徴です。

「ファブリオ」の意外なところは、もともとは韻文で書かれていることです。その書き手としては、知識人が多かったとされています。

また「ファブリオ」の作品群はイタリアの作家ボッカチオの代表作『デカメロン』などの正統派の文学にも影響を与えたことがわかっています。

「ファブリオ」の作品群こそ、現代フランス人のユーモアの源泉であるのかもしれません。

このような陽気な「笑い話」が大量に生み出され、受け入れられたフランスの13世紀という時代は、社会学的に見ても「庶民にとって生きやすい時代」でした。天候もよく、農業生産が飛躍的に増え、人口も増加し、人々は安定した暮らしを営んでいたのです。

ところが、14世紀に入ると、フランスは地方文化が栄えた封建体制から、中央集権体制へと移行しました。また、ヨーロッパ全体が冷寒期に突入し、飢饉が訪れたり、ペストが流行したりと、苦しい時代へと突入していきます。当然その時期には、笑いを楽しむ余裕すらなくなり、「ファブリオ」は廃れていきます。

つまり、「エッチなジョーク」が流行している時代は「佳き時代」であり、それを楽しんでいる人は「心に余裕がある幸せな人」。そう言えるのではないでしょうか。