WHO幹部の教えから決断した府内「一斉休校」

僕は、このままでは、いつか日本の中に感染者が入国することは間違いないと考えた。時間の問題だ。水際作戦を徹底することも重要だろうが、もっと重要なことは、日本国内に感染者が入ってきた後の対応だ。

そのときに頭の中にあったのは、WHO(世界保健機関)の幹部から、知事室で聞いた話の内容だった。それは、新型インフルエンザが流行する数カ月前のことだったと思う。

(略)

そのときに、僕は「パンデミックを止めるのに最も効果があるのは何ですか?」と聞いた。

WHOの幹部は、「人と人の接触をなくすことです。しかし、これは人の活動、都市活動を止めることにもなる。だから役所ではできません。最後は政治家にしかできないことです。そして感染に気付いたときに都市活動を止めても、もう遅いのです」と答えて下さった。

その後の議論を経て「もちろん役所組織がやるべきことはたくさんあって、それは役所組織がきちんとやっていく。しかし都市活動を止めるようなことは、確かに政治家にしかできない。そして感染が広がったかどうかがわかってからではもう遅い。広がる可能性があるときに一か八かで政治判断をやらなければならない」ということが僕の頭の中に明確にインプットされた。

そして数カ月後に、新型インフルエンザの大流行に遭遇したのである。

僕は水際作戦には限界があると思い、都市活動を止めることを念頭に準備し始めた。専門家から意見を聞いたが、どういうときに都市活動を停止するのが効果的なのかという点は最後まで明確にならなかった。というよりも、そんなことを考えている専門家がまだいなかった。

(略)

そして5月16日、神戸と大阪に海外渡航歴のない高校生に新型インフルエンザの陽性反応が出た。完全な国内感染だ。実数はまだ判明していなかったが、海外からの帰国者ではない者に陽性反応が出た以上、とにかく国内で感染し始めている。しかも神戸と大阪の両名ともに高校生だ。

連日、府庁では対策会議を開いていたが、このときも緊急で対策会議を開いた。

僕は、専門家の意見も参考にしながら自分の頭の中で整理していた対策案を提案した。最も活動が活発な高校生と中学生、できれば小学生までの活動を止めたい、すなわち大阪府内の小中高の一斉休校の提案だ。

(略)