アメリカも中国も巨大だが、脆さがある

中国もアメリカも今は巨大な国ですが、それは「脆い巨人」です。アメリカはひどい脆弱性を抱えています。中国もやはりそうです。

中国共産党が永遠に支配するとは思えませんし、中国の不均衡な成長が社会に及ぼす大きな影響や内乱が発生する可能性も排除できません。今、豚コレラがはやっていますが、これも中国にとって重要な危機の引き金になるかもしれません。安定しているものなど何もなく、かつ、永遠なものもありません。

世界は12世紀以来、多くの異なる社会によって支配されてきました。世界にはさまざまな中心地がありました。ベニスのような地中海都市もありました。アムステルダム、ブルージュ、アントワープ……。大西洋側にはロンドンがあります。それから太平洋に移り、カリフォルニアから、今ではアジアにその中心地がシフトしました。

最終的な覇権は、争いの外にいる第三者がとる

登壇したジャック・アタリ氏(写真提供=日本アカデメイア)

我々が忘れてはならないのは、中心地に取って代わるものがたくさんあるということです。それはテクノロジー、新しいリーダーを引き付けるようなもの、財力、発明、自由、冒険をする能力など、さまざまあります。リーダーがリーダーたるためには他者と競争する必要があります。必ず誰かが新しいリーダーになろうとします。誰かがライバルの攻撃を受けると、常にライバルが負け、第三者が勝つのです。

例えばオランダが世界一の大国であった時代は、オランダが世界を支配し、日本までやって来て範囲を拡大しました。その当時のライバルはフランスでした。しかしフランスは敗退しました。結局、どこが勝ったかというと、オランダではなくてイギリスでした。

また、20世紀初頭にドイツがイギリスに戦いを仕掛けて英独が戦いましたが、勝者はドイツではなくてアメリカでした。そこから将来を占ってみれば、リーダー同士の戦いで潜在能力のあるリーダーというのは最初に戦うリーダーではなくて、どこか別のところから現れるという法則を見いだすことができます。

トランプ大統領でなくても下落していく

――アタリ氏は過去の歴史から、“2つのライバルが争うと、第三者が「漁夫の利」を得る”という法則を見いだす。そして、その歴史の法則から米中の近未来の予測を始める。

新しい別の中心地が出てくるかもしれません。中心地が地中海、北海、大西洋、太平洋の西側につながって、引き続いていき、中国が新しいリーダーだと言う人がたくさんいます。私はこの先の段階は次のようになると思います。

まず長期にわたって米国が凋落ちょうらくして、その支配が弱まります。10年、20年以上かかるかもしれませんが、緩やかに下落していくでしょう。誰がアメリカの大統領になるかは、関係ありません。アメリカ国民の生命を犠牲にしてまで他国民の自由を守るということはしない。アメリカが焦点を当てるのは自国内の問題だけです。もはや普遍的な国家ではありません。これは事実です。