ファンイベントは「感動の追体験」から始める

「好き」のベクトルを合わせて参加者を厳選したら、いよいよリアルなファンイベントの実施だ。ここで最も大事なのは「感動の追体験」だと高橋さんは言う。

トライバルメディアハウス チーフコミュニケーションデザイナーの高橋遼さん(提供=トライバルメディアハウス)

実は、たとえ熱狂的なファンであっても真正面から「なぜその商品がそんなに好きなのですか?」と聞いてすぐに理由を答えられる人は少ない。好きな理由の言語化は案外難しいのだ。だけど、「どうやって好きになったのか」という体験は過去のどこかで必ずあったはずだ。そのストーリーをひもとき、互いにシェアをして、さらにはその感動を共有する。そうすることで顧客とブランドのつながりはより強固になっていく。

「なぜ自分がこのブランドを好きになったのかを、リアルな体験を通じて思い出してもらいます」

靴なら、履いてみんなで一緒に走ってみる。包丁なら、実際にトマトを切ってもらう。触る、匂いを嗅ぐ、味わう、身につける。時には、新製品を試してもらったりもする。そうやって参加者それぞれに「好き」の感覚をじゅうぶんに再確認してもらったら、今度は商品と自分自身の接点を振り返る時間だ。A4の紙を配り、横軸に人生の時間、縦軸には商品への熱量をとり、線グラフで表してもらう。すごく好きになったときには、どんな体験があったのか。逆に、好きな気持が薄れたのはどんな理由からなのか。

熱量の線グラフ
資料提供=トライバルメディアハウス

ある人間が、あるモノを熱狂的に好きになるまでにはどんな出来事がおこっているのだろうか。現代は、便利な商品が世にあふれ、性能や機能は今や個人には使いこなせないほどのレベルにまで達している。技術の優位性だけでは消費者からの熱狂は望めない。

ある特定のモノを好み、それをわざわざ選んで買うという行動に消費者を導くのは商品と自分自身をつなぐストーリーの存在だ。

「自分がこんなふうに使っている」がコンテンツになる

その商品が自分の人生とどうリンクしているのかというストーリーを探るのは、本人にとって楽しい作業であると同時に、その商品の魅力を外に向かって語る上で、とても優れたコンテンツになる。

その一つの例として高橋さんが注目しているのが「ほぼ日手帳マガジン」の「100人に聞いたほぼ日5年手帳の使いかた」というコンテンツだ。コピーライターの糸井重里さん率いるほぼ日が2018年にリリースした「ほぼ日5年手帳」。それを購入した人たちの使いかたを写真とともに紹介している。「いっしょにくらす犬のことを書いています」「一日を漢字一文字で表しています」「贈り物を記録しています」などさまざまに楽しんでいる様子がリアルに感じられる。

「自分はこんなふうに使っていると口々に言っているだけなのに、同時に不特定多数に向けて魅力を伝える効果的なコンテンツになっています」