「投資してプラットフォームを築いたところで、利便性に欠けるとなれば序列的には下がるでしょう。異業種の人たちが試合に集まり、サッカーを楽しみながら交流できる空間を提供するにはどうしても限界が出てきますから。その点、都心にスタジアムを持つクラブが有利なのはたしかです。旧時代のスタジアムは客人をもてなすホスピタリティエリアが十分ではないため、機能性に優れた新しいスタジアムをパッケージに盛り込めるなら、なお価値が見込めます」

リニア開業でクラブの価値が急騰?

交通手段の変革が、クラブの市場価値を劇的に高める可能性もある。高橋氏が着目するのは、27年の開業を目標に計画が進められているリニア中央新幹線だ。

「予定される所要時間は、品川‐橋本間が約10分、甲府まで約25分、名古屋まで約40分です。これが実現すれば、与えるインパクトはかなり大きい。人の移動する範囲が大きく変わります」

現在、J3のSC相模原は新スタジアム建設の運動も始まっており、仮に最新鋭の拠点と交通の利便性の2つを手にすれば、飛躍的にクラブ価値が向上するに違いない。リニアのルートである、山梨県、長野県、岐阜県のJクラブも同様に、買収の新たなターゲットに浮上するだろう。

かつては日本サッカーの基層を成す丸の内御三家(三菱=浦和レッズ、日立=柏レイソル、古河=ジェフユナイテッド千葉)が強い影響力を持っていたが、時代は変わり、旧来の親会社に頼るシステムでは成長が頭打ちなのは明らか。世界の競争に後れを取らないためにはJクラブも競争力をつけていかなければならない。

「ガンバ大阪を持つパナソニックは他のJクラブから有能な経営人材をヘッドハンティングして、変化を起こそうとしている。この動きは非常に面白いと思いますね。また日本を代表するトヨタが名古屋グランパスを他社に売却するなどの、ドラスティックな変革をするとは考えにくいですが、こちらも他のJクラブから有能な経営人材が入社したことで徐々にクラブのビジネスにイノベーションが起きるかもしれません」

自他ともに認める名門であるがゆえに、輝かしい伝統は足かせになりうるケースもある。

これまで日本サッカー界を牽引してきたクラブが時勢に乗り損ね、新興クラブが新時代の経営者の手腕によって躍進し、逆転現象が起こる可能性は否定できない。条件さえ整えば、浦和を追い越すビッグクラブの将来像を描けるということだ。

事実、19年7月にJリーグから発表されたクラブ経営情報開示資料によると、18年度はヴィッセル神戸がJリーグ史上最高営業収益の96.6億円を計上し、事業規模の大きさでは他の追随を許さなかった浦和(18年度は75.4億円)を軽々と抜き去っている。

高橋氏は言う。

「結局、重要なのは『人』なんですよ。サッカーの価値を使い、グローバルな営業を仕掛け、経営力のあるビジネスマンがその企業にいるかどうか。スポーツをマネジメントできる人材の育成が急務だと考えます。また、現在東京五輪の組織委員会に集結している優秀な人たちが、大会後、それぞれのスポーツの分野に散り、どんな仕事ぶりを見せるかということにも注目していますね」

世界の潮流に乗り、いかに成長を遂げていくか。10年後のJリーグは勢力図が大幅に塗り替えられているかもしれない。

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