珍主張3:「とにかく歯が痛くて痛くて」

執行猶予期間中に覚醒剤を使用して捕まった30歳の女性。前科が3犯ある(覚せい剤使用と免許証偽造、詐欺)。執行猶予中の逮捕なので実刑は確実で、いかに刑期を軽くできるかに被告人の将来がかかっている……ように思えた。こういう立場に置かれた被告人なら、法廷で素直に反省の意を示そうとするのが普通だろう。

しかし、被告人は主張するのだ。

「あごの骨の手術を受けたせいで歯が痛くてたまらず、仕方なく覚醒剤を使いました」

意味がわからないし、覚醒剤に痛みを和らげる効果があるとしても、それを知っているのは覚醒剤の使用に慣れていると告白するに等しい。しかし、被告人はめげることなく繰り返す。

「とにかく歯が痛くて痛くて」

死ぬほど痛かった自分には、覚醒剤を使う選択肢しかなかった。中毒じゃないんです。更生する意思はありますし、現に執行期間中は今回を除き、ただの一度も使っていません。悪いのはあごの手術に失敗した医者なんです!

黙って聞いていた検察官が、やってられないという顔で被告人に言った。

「歯が痛いときは、覚醒剤を使うより歯医者に行くべきです」

珍主張4:「刺せ!と命じられたんです。殺意などありませんでした」

ケンカの絶えない夫婦。その晩も激しくやりあい、ベッドに包丁を2本持ち込んで「刺すなら刺せ!」と挑発する夫を、妻が馬乗りの姿勢で刺殺してしまった事件があった。妻は動かなくなった夫を見て死んだと思い、親戚に電話で状況を伝えたのち自殺を試みるも失敗。殺人罪で起訴され、罪を認めたが、ひとつだけ否定したことがあった。

殺意はなかったというのである。

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被告人は、じつは夜の営みにSM的な嗜好を持ち込んで楽しむことが多く、事件発生のポイントとなった「刺すなら刺せ!」もプレーの一環だったような言い方で殺意がなかったことを説明する。夫の指示に従って包丁を振り下ろしたら、たまたま心臓を刺してしまった。罪を逃れるつもりはないが、それだけはわかってください……。

しかし、裁判長は特殊な事情を考慮しつつも、殺意を疑う合理的な証拠はないとした。それを決定づけたのは包丁の握り方。夫に包丁を渡された被告人は、それを順手で握るのではなく、わざわざ逆手に持ちかえて振り下ろしていたのだ。被告人は、言われるままに包丁を手にし、殺す気もないまま刺したというストーリーを持ち出したが、やったことは確信犯的。それを証明するのが“逆手持ち”だったのだ。