寝ずにフィギュア制作

しかし本当に怖いのは、そのまま流されていくうちに、本来やりたかったことを忘れてしまうこと。学生時代にはきちんと描けていた夢を、仕事をはじめて数年経ったらすっかり意識しなくなっていた、なんてことはありがちです。

その点、大野は、自分のやりたかったことを忘れませんでした。

嵐としてデビューし、活動していくという大きな流れには逆らわない一方で、流されていない時間の使い方もしていたのです。忙しい日々をおくる中、プライベートの時間に絵を書いたり、フィギュアを作ったりという創作活動を続けていきました。もちろん、嵐の仕事もきちんとやりながら。特に誰かに公開する予定もなく、勝手に、です。

嵐としてデビューする前、京都の舞台の楽屋でも絵を描き続け、デビューをして数年を経た後、2006年の年明けからはフィギュア制作もはじめます。舞台期間中も、休演日はもちろん、大阪公演のホテルの中でも、1日2回公演のあとでも作っていたというのですから、その熱意とかけた時間はかなりのもの。

ちなみに大野は映画が苦手らしく、撮影中は「1日1回は自分のやりたいことやらないと(笑)。撮影が夜中に終わろうが、そこから朝まで作って、そのまま寝ないで現場行ったほうがスッキリする。作らないとダメだったんだよなぁ(※3)」と語っています。

人間って、やればできる

仕事のリフレッシュとしてはハードすぎる作業時間。大野は、嵐としての仕事が忙しくても、創作活動をやめなかったのです。しかも、誰かに強要された締め切りがあるわけでもない状況で、大野は「2006年9月までにフィギュア100個を作る」と自ら期日を決めて創作をしています。できなかったら、「お酒を断つ」「まゆ毛を剃る」と自分で自分に罰ゲームを設定し、友だちにも宣言。というと冗談めいて聞こえてしまいますが、「その日までに出来なかったら、やっぱ自分に嘘つくことになる(※3)」という発言からは、ストイックさがうかがえます。

誰かに設定されなくても、しかも仕事ではないにもかかわらず、自分で期日を決めるのは、舞台の影響が大きいようです。その理由をこう語ります。

「舞台は稽古期間が短くても、本番は決まってて、お客さんが入る……これはもう確実にあって、逃げ出すことは出来ないでしょ? 『ホントに出来るのかよ』って思うんだけど(笑)。でも初日は確実にやってくるし、出来ないと思ってても、結局本番では出来てる。そういう経験を今までしてきたから。『あぁ……人間って、やれば出来るじゃん!』って(笑)。だから、絵を描いてるのは趣味だけど、期日を決めたらいいんだって(※3)

仕事で、きちんと何かを達成したという成功体験が、趣味のアートをする時にも活かされて「出来るはず」と思わせる効果を生むのでしょう。