気になる子の姿が浮かんで夜も眠れない

「幼い命をなぜ守れなかったのか」
「児童相談所が虐待を見逃した」
「殺したのはお前らだ」

事件が報道されると、批判の電話が全国から殺到した。

鳴りやまない電話の中、浅田さんはショックで頭が真っ白になっていた。

明確な身体的虐待はないが、ネグレクト(育児放棄)の傾向が強いという、対応の難しいケースだとは分かっていた。細心の注意を払ったつもりだったが、一方で母親とはコミュニケーションが取れているという思いもあった。これが慢心につながったのだと批判されたら、返す言葉は思い浮かばなかった。

自分は何かを見落としていた可能性がある。であれば、担当している他のケースでも、同じような結果になってしまうのではないか――。そう思うと怖くなり、児相の倉庫に徹夜で籠もった。すべての家庭の資料を読み返し、改めてチェックしても、「この子らも死んでしまうのではないか」という不安は消せなかった。

母親の精神状態が不安定、きょうだいを保護している、保護した後に自宅に戻した……。この事件との共通項を抱える家庭は無数にあった。100カ所以上の家庭を訪問し、子どもの安全を確認する日々が続いた。夜になっても、気になる子の姿が浮かんで、眠れない。虐待の情報が寄せられる家庭は、すべて何らかのリスクが潜んでいるように見えた。

そして、一時は、ほんのわずかなリスクでも、子を親から離す保護を選択した。浅田さんだけでなく、県内、いや全国の児相全体が、そうした傾向を強めていった。

保護したことで「負の連鎖」が起こることがある

しかし、一方で、保護ですべてが解決しなかった事例もあった。

母親からの暴力で保護した小学生の姉妹は、児童養護施設で暮らしている間に母親が亡くなった。浅田さんによると、2人は18歳になる前に施設を出たが、貯金も行き場所もなく、貧しい生活を強いられたという。

児相の権限で保護を継続できるのは、原則として子どもが18歳になるまでだ。自宅や家族といった生活の基盤を持たずに社会に出ていかざるを得ない子どもも多い。

保護された後に家庭に戻った子を愛せないという実親、希望しても大学に進学できない施設出身の子どもたち、「実の子ではない」と里親から告知を受けた子の葛藤……。虐待で保護された後、施設や里親家庭で育ちながら様々な苦労に直面した子が成人後、「自分の子は施設に入れたくない」と語り、「絶対に親と同じことはしない」と言いながら、わが子を虐待してしまう。そんな「負の連鎖」を、浅田さんは繰り返し目にしてきた。