祭りの維持のため「ふるさと納税」をする人が増加中

中山の虫送りを取り仕切るのは地元の消防団らであるが、将来的に祭りを存続させていくために、再開をきっかけにしてさまざまな試みを始めた。ひとつは、観光客が、「ただの見物客」にならないようにしたことだ。

日本の地域の祭りの多くは、地元の保存会主導で催され、観光客は「見るだけ」が多い。しかし、中山の虫送りは地元民と観光客の分け隔てがない。誰でも、祈祷や火手を持った練り歩き(400本限定)に参加できる。

資金調達でも新しい試みを取り入れている。祭りの当日は、募金箱を回し、参加者から資金を集める。また、地元小豆島町では、ふるさと納税制度を祭りの運営費に充てているという。他県から参加した人が小豆島への関心をより高め、都会に戻った後は小豆島町のふるさと納税を行ってくれる。その際、納税者は「祭りの維持」としての使い道を指定できる。

つまり、「よそ者」を祭りの担い手にすることで、さまざまな好循環を生んでいるのだ。島は人口減少の傾向にはあるが、近年、移住者が少しずつ増え始めたいう。

日が暮れて幻想的な情景をつくる

どこの地域でも郷土の祭りの維持が難しくなっている。祭りが途絶え、結果、地縁がもろくなってますます人口減少に拍車がかかる、といった悪循環にある。

中山の虫送りもかつては同様であった。虫送りは僻地の夜間に行われるため、特に外の人の目に触れにくい難点がある。観光行事でもなければ、テレビなどで報じられるようなこともなかった地味な祭りだ。

麓の神社まで火の行列が続く

しかし、映画化がきっかけで広く門戸が開かれると、よそ者の心をたちまちわしづかみにした。それは、いかにも非日常を体験できる幻想的で感動的な祭りだったからだ。実はこうした「地域に埋もれた宝」が、日本の地方都市にはごまんとある。ようはきっかけづくりと、地域の宝を輝かせる手法にかかっていると、いえるだろう。

これまで閉鎖的だったムラ社会が、いかによそ者を積極的に受け入れ、ファンを増やしていけるか。小豆島の虫送りの再生劇は、各地の地域創成を考える上での好例と言えるだろう。

(撮影=鵜飼秀徳)
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