セーフティネット「生活保護」受給者をたたく日本社会

さらに生活保護についても、もともとは不正受給が問題とされるべき議論が、いつの間にか「生活保護の人がワーキングプアの人より収入が多いのはいかがなものか」という論調に変化し、政府に頼る受給者に対するバッシングへとつながっていった。誰もが生活保護というセーフティーネットの世話になる可能性があるにもかかわらず、生活保護で国に食わせてもらっている人はけしからんという空気が醸成されたのである。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/itasun)

人に甘えることが許されなくなった事例は他にもある。昔は酒の席では、年齢や肩書に関係なく無礼講で言いたいことを言ってもいいことがあった。いわば「甘え」を認める文化だったが最近は、無礼講と口では言いつつ、その実、暗黙の了解があり、場の空気を壊す人間をKYなどと言って断罪するようになった。

逆に欧米では相互依存の重要性が強調されるようになった

皮肉なことに、日本が「甘え」から「自立」を目指す社会や文化に変貌している際に、欧米では相互依存の重要性が強調されるようになってきた。

私が90年代初頭のアメリカ留学中から学び続けているハインツ・コフートの自己心理学は心理的依存の重要性を説くもので、現在アメリカでもっとも人気のある精神分析理論である。自立を求めてつい無理をしがちなアメリカのエグゼクティブにこれが受けているようなのだ。

また、日本でも一世を風靡した「EQ(こころの知能指数)理論」でも、感情のコントロールと同時に重視されるのは共感能力であり、いい意味で「相互に依存する」ことが人間関係を豊かにする重要性が説かれている。

この応用編の理論の中では、暴君型のリーダーシップは古く、共感型リーダーこそあるべき姿として説かれている。またハーバードやMITのような名門大学で「共同研究のスキル」を教えるようになったことも紹介されている。