クラフトビールの勢いが止まらない。小規模なビールを作れるようになったのは1994年からで、当時は「地ビール」とも呼ばれた。なぜここに来てブームになっているのか。ライターの石田哲大氏は「意欲的な醸造家と若い飲食店店主、さらには流行に敏感な飲み手が共鳴してブームが起きた。その背景にはSNSの台頭があったのではないか」という――。
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「地ビール=おいしくない」という残念な認識

クラフトビール専門店の新規出店が相変わらず続いている。いっときのはやりで終わることなく、外食マーケットにしっかり根付いたようだ。

今では少しでもビールに興味がある人ならば、何げなく使っている「クラフトビール」という言葉だが、10年ほど前まではほとんど見聞きすることがなかったはずだ。クラフトビールとは、小規模ブルワリー(醸造所)でつくられたビールのことを指すが、日本では「地ビール」と呼ばれることが普通だったからだ。

1994年に酒税法が改正され、小規模業者でもビールを醸造・販売できるようになると、観光地を中心に日本全国で地ビールが売り出されたが、地元の特産物を無理に使用したり、醸造技術が伴っていなかったりで、品質は決して高いとはいえなかった。その結果、「地ビール=おいしくない」という認識が広がり、ブームは下火になる。

再び地ビールが注目されはじめたのは、2010年ごろのことだ。それまでも老舗の専門店が地ビールを提供していたが、この頃にオープンした専門店は、イメージがよくない「地ビール」でなく、「クラフトビール」という呼称を使用した。

「生中」では注文が通じない店作りがウケた

「Ant'n Bee(アントンビー)」(東京・六本木)、「vivo! BEER+DINING BAR(ビーボ!ビア+ダイニングバー)」(同・池袋。開業は03年で、10年4月に国産クラフトビール専門店に業態転換)、「Watering Hole(ウォータリングホール)」(同・代々木)といったこの時期に開店した店は、その後続々と登場するクラフトビール専門店の先駆けといっていいだろう。

これらの専門店は、既存のビール業態とはさまざまな面で一線を画していた。

まずはビールについて。ビールをメイン商材としていたおもな既存業態には、①ビアホール、②パブ、③外国ビール専門店があった。①は大手ビールメーカーの樽生ビール、②は英国系の樽生ビール、③はベルギーやドイツ産の樽生ビールやボトルビールを主力商品として扱っていたのに対し、クラフトビール専門店は日本全国の小規模ブルワリーから仕入れた樽生ビールを主力商品とした。それも常時10銘柄、多い店では20銘柄以上をそろえた。

たいていの店では、産地、生産者、ビールのタイプや特徴などを細かに記したリストを用意し、そこから好みの商品を選んでもらう注文スタイルを採用。これまでビールといえば「生中!」などと注文するのが当たり前だった消費者にとっては、新鮮な体験だったにちがいない。