先ほどお話ししたようにDLTで管理されるシステムには、中心となる親ノードが存在します。現実の世界でその役割を果たすのは、たとえば銀行や証券会社など既存の産業で中心的な地位にいたプレーヤー。一方、ブロックチェーンは各ノードが対等で、システム全体を仕切る人がいません。それゆえ、従来とはパワーバランスが変わる可能性があるのです。社会に与えるインパクトは、DLTよりブロックチェーンのほうが大きいかもしれません。

不動産分野での活用はありうるか

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以上を踏まえ、親ノードがない狭義のブロックチェーンが不動産分野で活用されるかどうかを考えてみましょう。まず思いつくのは、土地登記制度への活用です。土地登記をブロックチェーンで記録できれば、土地の所有者が曖昧になることがなく、二重譲渡などのトラブルは起きなくなると期待されました。

ただ、日本の土地登記制度にブロックチェーンを導入するのは現実的には困難です。日本では、売り手と買い手の意思表示が合致した時点で契約が成立して、登記を完了しなくても土地の所有権が移転するからです。これではいくら登記の記録方式を完璧にしても、実態と記録に齟齬が生じているので二重譲渡などが起きるおそれがあります。

これを防ぐには、登記を義務化したうえで、「登記しないと所有権が移転しない」と民法を改正する必要があります。土地登記制度をゼロベースでつくっていく途上国ならともかく、すでに既存の法制度が定着している日本で、このような法改正をするのは難しい。

仮に法制度の問題をクリアできたとしても、土地取引という法律行為をした人を誰が認証するのかという問題が残ります。前提として、国土の所有者の確認・認証ができるのは事実上、国しかありません。

国が関与するなら、わざわざ分散型にしなくても、中央のサーバーで一元的に管理したほうが効率はいい。この点からも、土地登記制度へのブロックチェーン活用には、懐疑的な見方が存在します。

むしろ期待できるのは、空きスペース活用に代表されるシェアリングビジネスへの活用です。ブロックチェーンを使えば、ある物件の「何時から何時まで」という利用権を証券化して、その権利が二重になることのないように移転することができます。物件の鍵そのものを電子化すれば、物理的な鍵のやり取りも必要なくなり、また一時的な利用ならば、土地の売買ほど厳格に本人認証をする必要もない。さらに、外国人旅行者など国境を越えた権利のやり取りがある点も、中央で仕切る人がいないブロックチェーン向きといえます。