図の下側、資産運用をスタートした直後の動きに注目してください。資産運用をスタートしてすぐにリターンがマイナスになり、元本まで回復したかと思ったらすぐにまたマイナスになっています。プラスとマイナスの行き来は、半年以上続いています。このシミュレーション通りに資産運用をしていたら、最初の半年は一喜一憂していたかもしれません。

一喜一憂することに疲れた頃、リターンがプラスになると、利益を確定(利確)させようという人が出てきます。「もうこれ以上マイナスになるのを見たくない。利確してしまおう」と資産運用をやめてしまうのです。最初の苦しい時期を乗り越えられなかったがために、将来の大きなリターンを失うことになります。

気を取り直して資産運用を再開しても、振り出しに逆戻りです。資産運用を始めたばかりだと、リターンはプラスとマイナスを行き来しやすく、また一喜一憂することになります。

25年間のシミュレーションでは、最初の苦しい時期を乗り越えて資産運用を続けると、プラスのリターンが大きくなっていきました。こうなると、資産が1%増えたり減ったりしても、心の揺れは小さくなるでしょう。残高を確認する頻度も減り、短期的な資産の増減はあまり気にならなくなるはずです。

資産運用を始めたばかりの苦しい時期を乗り越えることが、「長期・積立・分散」の資産運用を成功へ導きます。長い目で資産を見守りましょう。

リーマン・ショックは「何もしない」が正解だった

柴山和久『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いたこれからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)

前項で述べた通り、「長期・積立・分散」の資産運用は、スタートして早々に、苦しい時期にぶつかります。それを乗り越えると、リターンが安定し、落ち着いて資産運用をすることができるようになります。

しかし金融危機が発生すれば、リターンが大きく失われ、普段は冷静な投資家もパニックになります。近年のもっとも極端な事例が、リーマン・ショックでした。

多くの投資家がパニックに陥り、リーマン・ショック後に株を売って、株よりもリスクの低い債券や金、現金などに移したことがわかっています。

前述の通り、アメリカ人である私の妻の両親も、パニックに陥りました。妻の両親は1990年代からプライベート・バンクで「長期・積立・分散」の資産運用を続けており、幾度かの金融危機を乗り越えてきました。しかし、さすがに株価が3割も下落し、悲観論に満ちたメディアに日々接していると、資産運用をやめたほうがいいのではと思うようになりました。