福島市のサン・チャイルドも、なんの脈絡もなく設置され、すぐに撤去されたわけではない。ヤノベ氏は同じモチーフで以前から作品制作を行っており、サン・チャイルドシリーズはほかの場所に設置されたり、海外を巡回したりして好評を博してきた。最初の公開は、震災から約半年たった2011年10月の、大阪・万博記念公園。その後、東京の岡本太郎記念館や第五福竜丸展示館、海外のいくつかの国で巡回展示された。

2012年には、ヤノベ氏がかつて暮らした大阪府茨木市の阪急南茨木駅前ロータリー前にサン・チャイルドが設置され、3月11日に除幕式が開催された。この像は恒久展示されることになっており、昨年3月には市民約100人が参加して清掃活動が行われている。

「あいちトリエンナーレ2013」では、『太陽の結婚式』というプロジェクトが行われた。サン・チャイルドの胸像をシンボルとする教会が設置され、その前で数十組のカップルが結婚式を挙げたのだ。結婚式教会での挙式数が日本一を誇る愛知だからこそ、行われた企画であるという。

作品としての「強さ」ゆえに記憶に直結した

公共空間に置かれた像やモニュメントは、制作者や設置者の意図とは別にさまざまな意味が読み込まれる。地元の人々は像に地域の事情を見いだし、外からその地域を訪れた人々はまったく別の見方をする。しかも、そこで読み込まれる意味は、時代によって実に流動的なのである。

福島市に設置された「サン・チャイルド」像(筆者撮影)

今回は、原発事故を風化させないように市が設置したサン・チャイルド像が、事故を忘却したい、忘れてほしいという市民からの要望で撤去された。その場所で暮らす人々にとって、サン・チャイルド像は単なるアート作品ではない。福島の何を記憶し、何を忘れるかという集合的記憶をめぐる交渉と直結しているのである。

そして、こうした交渉のテーブルにサン・チャイルド像がのせられたのも、作品としての喚起力が強いからだろう。今回の撤去を批判する意図はないが、公共の場に置かれるからこそ、さらに広く地域住民の声を集め、議論を尽くしても良かったように思われる。

岡本 亮輔(おかもと・りょうすけ)
北海道大学大学院 准教授
1979年、東京生まれ。筑波大学大学院修了。博士(文学)。専攻は宗教学と観光社会学。著書に『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社)、『聖地巡礼―世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)、『江戸東京の聖地を歩く』(ちくま新書)、『宗教と社会のフロンティア』(共編著、勁草書房)、『聖地巡礼ツーリズム』(共編著、弘文堂)、『東アジア観光学』(共編著、亜紀書房)など。
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