乗降客増加、東京駅10%、新宿駅20%、永田町駅20~30%

もう1つ、通勤客が普段から乗り換えに使う都心の主要な駅が危ない。シミュレーションによると、朝ラッシュのピークに合わせて観客が現れ、短期間であるが、東京駅は約10%乗降客が増す。同様に新宿駅は約20%、永田町駅は20~30%増える。

増える乗客の中には、混雑した駅の利用に不案内な人が多い。それなりに流れている高速道路もちょっとしたトラブルで車間距離が詰まって渋滞が始まるように、駅でも人と人との間が詰まって歩く速度が落ちると滞留が始まってしまう。大規模な乗換駅では普段から改札やエスカレーターの付近で滞留が起きているが、五輪中の朝はそれがホームや駅構内に広がる可能性がある。ホームが混雑して電車の乗り降りに手間取ると、電車が遅延し始める。首都圏の鉄道網は大混乱だ。

これらの混雑に対して、駅や路線を増やすなどのハード面の対策をとるのは現実的ではない。長期的に日本の人口は減っていくのに、五輪中のピーク時のためだけに巨額の投資をするのは費用対効果が見合わないからだ。行うべきはソフト面での対策である。

競技場最寄り駅とそこにアクセスする路線の混雑に対して考えられる対策は、まず場所の平準化、つまり競技場にごく近い駅だけでなく、周辺駅から歩いてもらうことだ。たとえば新国立競技場は、新宿駅も最寄り駅として利用する。酷暑の中、約20分歩いてもらうためには、暑さ対策を万全にする、推奨する最寄り駅と競技場までの間に関連イベントを開いて寄り道をする楽しみを増やすなど、さまざまな工夫が必要ではある。しかし、うまくいけば競技場周辺の混雑は緩和される。

そして、時間の平準化も重要だ。たとえば競技開始前にイベントを行う、チケット番号で入場時間を制限する、競技終了後、屋台などを出して立ち寄れるようにするといった対策ができれば、競技の前後に集中する観客を分散できるはずだ。

問題は乗換駅のほうである。競技場周辺で平準化に成功しても、乗換駅での混雑緩和効果は限界がある。乗換駅では五輪観客側ではなく、通勤客側で対応する必要があるだろう。具体的には、混雑が予測される日は休業する、混雑駅を利用しないよう自宅やサテライトオフィス勤務をお願いする。単純に聞こえるかもしれないが、これ以上に効果的な手段は考えられない。

ただ、五輪中の休業は対症療法的である。理想的なのは、ビジネスパーソンが働き方を変えて、その結果として時差通勤をしたり、通勤そのものをなくしてしまうことだろう。そうすれば五輪期間中だけでなく、恒常的に混雑が緩和されて、生活のクオリティも高まっていく。