大股で歩くことにまったく意味はない

【かじやま】多くの人は、「運動は身体にいい」と単純に思い込んでいる。そこが危険ですね。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Connel_Design)

【田中】実は、大股歩きが広まった背景に、ジョギングブームがあるのです。30年ほど前に、ジョギングで突然死する人が増えて社会問題になったのをご存じですか。それを機に「ジョギングは危険だ」という認識が広まったけれど、運動をまったくしないのも健康によくない。そこで、「ウォーキングというムーブメントをつくろう」という機運が生まれたのです。

そのとき「正しい歩き方」とされたのが、広い歩幅で腕を振って歩くこと。着地するときはかかとから、そして、つま先で蹴り上げて前に進むことが推奨され、以降、「大股で歩くことが正しい」とされてしまった。

【かじやま】確かに最近のウォーキングの本にも、「できるだけ大股で歩きましょう」なんて書いてありますね。

【田中】これは日本だけの傾向ではなく、今や世界中に広まっているのです。しかし、大股で歩くことにまったく意味はない、というのがわたしの意見です。

その理由を説明しましょう。筋肉の分類方法のひとつに、筋線維の収縮のし方に着目して、瞬発力のある「速筋」と、持久力のある「遅筋」に分ける、という考え方があります。速筋は身体の表面に多く存在し、すばやく収縮することができますが、疲れやすく、筋肉痛の原因にもなりやすい。一方、遅筋は身体の奥に多く、収縮はゆっくりですが、疲れにくい“省エネタイプ”の筋肉です。

「立つ」「歩く」「坐る」といった日常の動作に必要なのは、遅筋を中心とする筋肉です。つまり、中高年の場合、速筋ではなく、身体の奥にある遅筋を主に鍛えたほうがいい。それが、死ぬまで自分の足で歩き、健康寿命を延ばすことにつながります。

ところが大股歩きでは、(ももの裏側にある)ハムストリングスなど速筋を中心とした筋肉が使われる。速筋は疲れやすく、肉離れを起こしやすい。わざわざ大股歩きをして速筋を使うメリットはないのです。

【かじやま】肉離れを起こしたら、歩くことがさらに嫌になってしまいます。ロコモ対策としても逆効果かもしれません。

【田中】もちろん、姿勢もよくありません。立ったときに、重心が左右の足の中心に落ちるように、また、横から見ると、耳のうしろ、肩、膝の皿のうしろ、そしてくるぶしが一直線上になることが重要ですが、この姿勢を保つには小股で膝を伸ばして歩くことが基本です。歩幅を大きくすると、姿勢が崩れ、歩き方もおかしくなってしまう。姿勢と歩行は表裏一体。正しい姿勢は正しい歩き方の前提条件なのです。