国は賃上げ低迷の中「私的年金加入による自助努力を」

政府も危機感は抱いている。

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今年2月16日、「高齢社会対策大綱」が閣議決定された。2012年9月以来の改定だ。その中で私的年金が「公的年金を補完し、個人や企業などの自助努力により、高齢期の所得確保を支援する役割を担っている」と言及し、充実の必要性を強調している。

私的年金とは、個人型確定拠出年金(iDeCo)、つみたてNISA(積立型小額投資非課税制度)などのことだ。また、中小企業については独力で退職金制度を持つのが困難だとし、中小企業退職金共済(中退共)の普及を掲げている。

だが、“退職金下げ”や退職金制度廃止が相次ぐなかで、「私的年金加入による自助努力」を促してもどれほどの効果があるというのか。原資となる賃上げが低迷している状況ではいくら自助努力せよと言われても限界があるだろう。

こうした実態を見ると、大企業や企業年金制度がある企業の社員は恵まれているといえるかもしれないが、今後は決して楽観できる状況ではない。

会社員に支給される公的年金(国民年金と厚生年金)は専業主婦の妻の分を含め、合計平均月額は22万1277円(厚生労働省、2017年度)である。

これに企業年金が加わるが、確定給付年金の1人当たりの平均年金月額は約7万円。前出の年金コンサルタントは「大企業の年金月額はそれよりも高いが12~14万円ぐらいではないか」と語る。

大企業の社員は公的年金と企業年金で約36万円(夫婦)になる。これだけあれば暮らしは困らないだろうが、ただし、これは現在受給している人の話である。公的年金が年金調整という名のもとに減額されていくことが明らかになっている。企業年金にしても、企業年金を含む退職金額自体が先に見たように減少傾向にある。

企業年金を抑制せざるを得ない「事情」

なぜ企業年金を抑制しようとしているのか。

企業年金の主流である確定給付年金は会社が定年時に支払うために外部の生命保険会社や信託銀行に運用を委託する。しかし、運用難で原資が不足すると会社が独自に穴埋めする必要がある。とくに今日のような低金利下だと当初想定した運用利率を下回ると負担が重くなる。

前出の年金コンサルタントは企業の狙いについてこう語る。

「日本航空の経営破綻の大きな原因は退職したOBの年金の支払いにありました。定年後にこれだけ払いますと約束した以上、既得権としてなかなか減額できません。実際は受給者の3分の2の同意がなければ減額できないので、会社の業績に影響を与えて破綻しないように、将来を見据えて企業年金や退職金の抑制を図っているのです」

具体的には年金の給付利率の引き下げ、つまり受け取る年金額を減額することである。実際に多くの企業がこの10年の間に給付利率を引き下げている。しかも退職したOBの企業年金の給付利率を下げるのが難しいので現役世代がそのしわ寄せを受ける。

退職した高齢者のOBの年金を支えるために現役の社員が身を削るのは公的年金の構図と同じだ。また企業年金には死ぬまで受け取れる「終身年金」もあったが、今では10~20年間限定の「有期年金」が主流になっている。