日本中を揺るがせている日大アメフト部の悪質タックル問題。本来、学生スポーツの最優先事項は「勝つこと」ではないはずだ。だが指導者たちは「強豪である」という実績により、長年チームを率い、絶大な権力をもつようになる。スポーツライターの酒井政人氏は「これは日大だけでなく、学生スポーツ全体の問題だ」と指摘する。旧弊を打破するには、なにが必要なのか――。

日大アメフト部だけじゃない、名門チームの“闇”

日大アメフト部の悪質タックル問題が世の中の話題をさらっている。内田正人監督(当時)と井上奨コーチは、いまだに悪質タックルの指示を否定しているが、「相手選手をつぶせ」と選手を追い詰めたことは認めている。そして5月29日、関東学生アメフットボール連盟はこの2人を事実上の永久追放にあたる「除名」とする処分内容を決めたと発表した。

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この問題について、私の周囲では、「いつかこういう問題が起こることを心配していた」と話す人が少なくない。なぜなら、球技、陸上、体操などの学生スポーツでは、強豪校であればあるほど、日大アメフト部に近い「指導者」「雰囲気」を持つチームが増える傾向があるからだ。これまでたまたま明るみに出なかっただけで、この件は学生スポーツ全体の問題としてとらえるべきだろう。

▼「監督としては一流、人間としては最低」

今回の問題で、筆者は、ある五輪競技種目において日本トップクラスだった元選手のこんな言葉を思い出した。

「監督としては一流かもしれませんが、人間としては最低です」

その元選手は、恩師に対して、優秀なアスリートに育ててもらったことは感謝していると言いつつ、その一方で人間としては「NO」を突きつけたのだ。

筆者は陸上競技を中心に中学、高校、大学、実業団、プロ、とさまざまなカテゴリーの取材をしてきた。また今回、筆者の実感を裏付けるため、他の競技を取材しているスポーツライターにもあらためて聞いた。そのうえで、学生スポーツの「闇」について取り上げたい。