「天気がいいうちに屋根を修繕せよ」

そして財政感覚の麻痺が、第4のリスクだ。日本の長期国債発行残高は900兆円に迫っているが、金利が低いために利子の支払いは約8兆円に抑えられている。これは国債発行残高が100兆円あまりだった1980年代前半と同じ水準で、こうした低金利が「利息の支払いに困っていないから、別に財政再建を焦らなくていい」という感覚を生む。景気が落ち込んだとき、財政出動でさらに大量の国債を発行する過ちにつながりかねない。

第5のリスクは、ゾンビ企業の延命である。低金利が続くと、生産性の低い企業も存続するため、新陳代謝が起こらず、社会の活力が出にくくなる。

日本の財政赤字の本番は、団塊世代が後期高齢者になり、医療費が飛躍的にふくらむ20年代後半からである。もう手を打たなくてはいけない状態なのに、危機感が生まれていない。国際的なエコノミスト、ビル・ホワイトは、かつてこのような発言をした。「中央銀行が超緩和政策で時間稼ぎを行っている間、政府・議会がその『痛み止め効果』に甘えて、構造改革を遅らせてしまったら、それは『時間の浪費』になる」。まさに日本の現状ではないか。

これからの黒田日銀は、世界経済が好調なうち、金利を上げる、ETFの買い入れ額を減らすなど、せめてもの微調整を行うべきだろう。ケネディ米大統領は、「天気がいいうちに屋根を修繕せよ」と言った。暴風雨のなかで屋根を修繕するのは困難である。

加藤 出(かとう・いずる)
東短リサーチ社長、チーフエコノミスト
1965年生まれ。88年横浜国立大学卒、同年、東京短資入社。2013年2月より現職。マネーマーケットの現場の視点から各国の金融政策を分析。日銀ウオッチャーの第一人者である。主な著書に『日銀、「出口」なし!』(朝日新書)など。
(構成=Top Communication 写真=iStock.com)
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