様々なサイズの「トルネード」を回す

──クルーズ旅行は、数人で始めたものが、大きな新しい動きにつながっています。

【高田】それが僕の理想なんです。グループ9社で、意志を持つメンバーが自発的に色々と楽しくやり、それを僕が後押しする形ですね。

──一方で、会社としてかなり大規模になりました。

【高田】社員は大企業と思っていないと思います。ベンチャーっぽい空気がありますね。当社の新卒定着率は高いのですが、転職組の定着率は意外と低いんです。社内では本当に仕事を進めるスピードが速いので、「ゆっくりできそう」と思っていた人は驚くと思います。転職してきて「サボっている人がいませんね」と驚いている役員もいました。

──確かに普通の会社だと、「仕事をしないおじさん」は2割くらいいますね(笑)。

【高田】仮説を持って仕事をすれば、仕事も楽しくなります。たとえば当社では、これまで故障した商品はメーカー様の修理センターに送っていました。でもこれだと、お客様の商品はメーカー様にある修理品のごく一部だし、時間もかかります。そこで社長になる直前に、アフターサービス専門の会社を作り修理を受け付けられるようにしました。これでお客様の不安や不満を迅速に解消できるし、商品のこともよくわかる。併設しているコールセンターの担当者も修理を手伝うので、故障したお客様の立場で応対できる。さらにメーカー様へ自発的に次期モデルの提案もできるようになりました。これらの仮説があれば自発的に動けますし、仕事も楽しくなりますよね。こうして会社の中に色々な大きさのトルネードがたくさんあるのが、究極の姿だと思います。

──個人もチームも会社も、それぞれの大きさのトルネードを回すイメージですね。

【高田】そうです。そして大きな仮説を社員みんなで共有して、社員が自発的に「自分はコレがやりたい」と手が挙がるようにしたいと思います。

入社後10年間は、僕が父の言葉を翻訳していた

──高田社長がこのようなお考えを持つようになったきっかけは、何でしょうか?

【高田】両親の影響が大きいですね。まず両親は、何かのせいにしません。「景気が悪い」「あそこに店ができて売上が落ちた」と言わず、「では自分がどうするか?」しか考えない。おかげで僕も受験に失敗した時は「あの時こうしておけば」という後悔がまったくなくて、「次は1日14時間やれば受かる」と考え1年間やりました。もう一つは入社後、父と仕事をした経験です。以前から「ジャパネットはなぜ成長するんだろう?」と思っていました。父は感覚的な人で、僕が言うのも変ですが天才です。父は意思決定をする時、理由を言わないので、社員は何を考えているか理解できませんでした。そこで入社後10年間は、僕が父の言葉を翻訳していました。すると「ちゃんと理論立てて組み立てているな」と思うことが実に多くて、これは今の考え方をする上で、本当に大きかったですね。

──意思決定の背景がわかると、社員の動き方も変わりますか?

【高田】予想を超えるものが返ってくるようになりますね。会議で僕が想像する以上の提案が出てきた時は、本当に嬉しいですね。

──社内の各所でそういうものが出ると、「自分も!」と思う人も出てきますよね。

【高田】JリーグのV・ファーレン長崎(※)がまさにそうですね。これも社員は「選手のモチベーションが上がると結果が出る」という成功事例だと感じていると思います。2年後にはJ1優勝すると思っています。(後編に続く)

※経営不振で消滅直前だったV・ファーレン長崎は、2017年5月に地元長崎のジャパネットホールディングスの100%子会社になり高田明社長が就任。その後、選手の顔ぶれはほとんど同じなのに大進撃。2017年11月、J2からJ1昇格が決まった。

永井孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント
1984年慶應義塾大学工学部卒業、日本IBM入社。マーケティング戦略のプロとして事業戦略策定と実施を担当。さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当。2013年に日本IBMを退社。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、講演や研修を通じてマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。主な著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(すべてKADOKAWA)、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版新書)などがある。
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