人前で話さなければいけないときに、どこから手をつけるか。プレゼンテーションの達人は「何を話すか」という内容ではなく、「だれに話すか」という聞き手の分析から始めるといいます。優先すべきことは、自分が何を話したいかではなく、相手は何を聞きたいか。6万人以上を指導してきた研修講師の西野浩輝さんがコツを解説します――。(中編、全3回)

「何を話すか」から考え始めるから、 プレゼンテーションがうまく行かない

みなさんはプレゼンテーションの準備を始めるときに、まず何から考えるでしょうか。多くの人は、「今度のプレゼンでは何を話そうか」ということから考え始めると思います。実はそこに落とし穴があります。

「何を話そうか」から考えると、自分自身が話したいことが頭の中に浮かんできます。けれども「自分が話したいこと=相手が聞きたいこと」ではありません。

例えばあなたがエンジニアだとして、「エンジニアとして新製品を開発することの苦労と喜び」についてプレゼンテーションをする機会があったとします。ただしプレゼンテーションをする相手が同業者なのか、経営者層なのか、あるいは学生なのかによって、相手が興味を持つ話題はまったく違ってきます。同業者には専門性の高い話が求められるでしょうが、学生相手に同じ話をしても相手はちんぷんかんぷんでしょう。

ですからプレゼンテーションの際にまず考えなくてはいけないのは、「今度のプレゼンでは、何を話そうか」ではなく、「今度のプレゼンテーションでは、誰に話すのか」ということです。そして「誰に話すのか」というイメージを明確にしたら、「ではその人に向けて、何をどのように話すのか」という順番になります。

「聴衆分析マトリクス」で、話す相手をイメージングする

「誰に話すのか」を考えるときに役立つのが、「聴衆分析マトリクス」です。

このマトリクスでは聴衆を「話すテーマについての知識が多いか少ないか」「興味が高いか低いか」の2軸によって4つの象限に分けます(図1参照)。

このうち最も話しやすいのがAゾーンに属する人たちです。知識も豊富で、ニーズも高い。ですからあなたが持っている知識を思う存分話せば、相手はそれだけで食いついてきてくれます。

一方Bゾーンの聴衆は、ニーズは高いものの知識量はそれほどではない人たちです。こういう相手に対しては、例えば新製品についてのプレゼンテーションする場合であれば、その新製品を導入すると「要はどんなメリットがあるか」「これまでの製品と何が違うのか」といったポイントを簡潔に提示します。スペック等についての細かい知識については、必要最低限の説明に抑えます。

では知識もなければ興味もないCゾーンの聴衆に対してはどうすればいいか。この場合、まずは聴衆をBゾーンに引き上げていくことを目指します。「あなたの職場の中にこの製品が入ると、毎日の仕事がこんなふうに変わりますよ」というシーンを具体的に描いて示すことで、「何か自分にも関係ありそうな話だな」と思わせるのです。

さて4つのタイプの中でも一番厄介なのが、Dゾーンの聴衆です。彼らは「ああ、その話ね。よく知っているけど、自分には関係ないよ」と思い込んでいます。生半可に知識があるから、聞く耳持たずになっているわけです。