日本の大企業は部長・役員の経験者に対して手厚い。このため本社での役割を終えても、子会社の社長や役員として処遇される人が多い。それでいいのだろうか。同志社大学の加登豊教授は「株主重視の経営を進めるうえでは、こうした『天下り』は許されない」と指摘する――。

子会社の業績を急伸させた「とんでもない社長」

今回の一穴=子会社は本社役員の雇用の受け皿としての役割を果たしている

今回はゼミ生の修了論文の思い出から始めよう。ビジネススクールに入学して私のゼミの所属になった学生と専門職学位論文(MBA=経営学修士の学位を獲得するために、合格しなければならない論文)のテーマについて打ち合わせを行っていた。

彼は私に向かって、次のように熱く語った。

子会社をよくもせず、悪くもせず、現状維持で次に渡すのが「子会社のよい社長」さん(写真=iStock.com/NicolasMcComber)

「とんでもない子会社の社長がいるんですよ。本社役員を経て、子会社の社長になったこの人物が、新たな事業に着手し、大成功を収めたため、一期3年で社長を退任してもらうことができなくなったのです。何が困るかというと、この子会社の次期社長候補であった人の処遇が難しくなり、人事の計画を一から見直さないといけなくなったのです。人事計画が円滑に進められるような子会社の管理をどのように行えば良いかを研究したいと思っています」

この発言を聞いて、みなさんはどのように思われるだろう。私は少し考えて次にように返答した。

「子会社の業績が上がることで、連結会計で利益連単倍率(※)は改善したのですよね。投資家は、単体決算の数字よりも、連結決算の数字を重視する。あなたの会社は上場企業ですよね。子会社の業績を上げた社長のどこがいけないのでしょうか。グループ経営に貢献した素晴らしい社長じゃないですか。子会社の存在目的は、役員経験者の雇用の受け皿となることなのですか。昔は、そうだったかもしれないけれど、もうそのような時代は過去のものとなっていますよ」

※親会社の業績を表す単独決算と子会社などを含むグループ全体の業績を表す連結決算の比率を表した指標。代表的なものに、売上高連単倍率=連結売上高÷単独売上高と利益連単倍率=連結(各種)利益÷単独(各種)利益がある。連単倍率が大きいほどグループ力が強く、低いほどグループ会社の業績への貢献は小さいことを示している。連単倍率1は子会社などの売り上げ・利益がすべてグループ内取引から発生し、グループ全体の売り上げ・利益の増加に何ら貢献していないことを意味している。

このようなやりとりの後、彼は釈然としないという表情を浮かべて、私の研究室を出て行った。その後、彼は子会社管理や多国籍企業の本社の役割に関する膨大な量の書籍や論文を読み、半年後には、私の発言の意味をようやく理解できるようになった。

今回は、子会社の存在意義や子会社の管理に関して検討してみたい。