取引先や上司が胸襟を開く「本物のヨイショ」

そうした太鼓持ちのヨイショのテクニックは、取引先や上司との関係強化にも生かせるはず。ただし、注意点もある。七好さんに伝授してもらおう。

「特に、馴染みの浅いお客さまが相手のときは、個人の信条にかかわる政治や宗教の話題は避けること。それに、特定の会社や商品を無闇に褒めたり、貶したりしてはいけません。私は昔、とあるプロ野球チームの悪口をうっかりいってしまったところ、同じお座敷に系列会社の社長がいらして、冷や汗をかいたことがあります」

宴席で無難なのは、色恋にまつわる話題だという。七好さんは、「お客さまが芸者さんを気に入った様子なら、『旦那はお目が高い。ここは1つ、私が間を取り持ちましょう』といったりします。ただし、『仲介料は別途いただきます』とオチをつけますがね」と笑う。

また、七好さんは「知ったかぶりは、お客さまにすぐに見抜かれるので、絶対にしてはいけません。むしろ場合によっては、知らないふりをするのも大切なんですよ」とも指摘する。

「旦那に『こんな都々逸を知っているかい』と聞かれたら、本当は知っていても、『いや、知らないので、ぜひご教示を』と答えるんです。本心は自慢の声を聴かせたいわけですから、それを察して芸を見せてもらう。そうすれば、旦那もご満悦です」(七好さん)

ビジネスパーソンなら、ゴルフ好きの取引先の幹部に、ラウンドに誘われることもあるだろう。そのときに腕前がシングルでも、バンカーに打ち込んだり池ポチャをして、「緊張しているのか、調子が悪いな~。○○部長はお上手なので1つ、ご指南いただけませんか」などと、いってみてはどうだろう。

太鼓持ちは、「馬鹿のメッキをした利口者」でないと務まらないといわれる。料亭は確かに高いが、銀座の高級クラブで4~5回接待するなら、たまには花柳界で一流の太鼓持ちの芸に触れ、本物のヨイショを学んでみたらどうだろう。

▼ヨイショがあってより際立つ太鼓持ちの「屏風芸」
屏風の裏にはご贔屓の旦那さんがいると想定
(1)旦那、鍼に凝っているって。じゃあ、呼びましょうか? えっ、自分で打つって。それも、おまえで試し打ちがしたいって!
(2)冗談じゃありませんよ。よしなさいって。どうしてそういうことをするんですか!
(3)乱暴しないでくださいよ。離しなさいってば、旦那!
(4)打たしてくれたら、また呼んでくれる……。お腹に打ちたい。旦那、上手い! えっ、まだやってない。冗談じゃありませんよ!
櫻川七好(さくらがわ・しちこう)
1952年生まれ。新劇俳優時代、劇中で幇間を演じたことをきっかけに、93年に悠玄亭玉介一門の櫻川米七師匠に弟子入り。94年、東京浅草見番でお披露目を果たす。浅草、向島、赤坂、新橋、神楽坂だけでなく、地方のお座敷でも芸を披露している。2016年度の文化庁長官表彰を受賞。
(撮影=石橋素幸)
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