神奈川県立がんセンターで、放射線治療医が大量退職し、治療の継続が難しくなっている。2月5日、黒岩祐治知事は、同センターを運営する県立病院機構の土屋了介理事長を解任した。だが土屋理事長は「解任は不当」と主張し、「県立病院の経営は大変ずさん。このままでは県民に高度な医療を提供できない」と指摘する。渦中の人物である土屋理事長の手記をお届けしよう――。

「形骸化」した地方独立行政法人という存在

平成30年2月5日、私は神奈川県の黒岩祐治知事により、地方独立行政法人神奈川県立病院機構の理事長を解任すると命じられた。知事は病院の経営に対して、一般指揮監督により介入しようとした。これは明らかな不当な行為だ。なぜこうした行為がまかり通るのか。それは神奈川県において「地方独立行政法人」という存在が名ばかりだからだ。

神奈川県立病院機構のウェブサイトでは「放射線治療部長・放射線治療医 急募」と書かれている。

神奈川県は平成22年4月、5つの県立病院を独立行政法人としており、今年で8年目になるが、その実態は形骸化している。主な原因は、(1)知事と県庁の幹部役職員が「独立行政法人」の本質を理解していないこと、(2)機構の各病院の幹部医師が自律できていないこと、(1)と(2)の結果、(3)県立病院時代のままの県庁からの出向幹部職員による病院管理、の3点である。

今後の自治体病院の健全な診療、教育、研究、経営に少しでも役立てばと思い、私の経験したことを報告する。

知事から「指示を聞けないなら、罷免する」と言われた

平成30年2月5日午後3時40分、黒岩祐治神奈川県知事に呼ばれ、2人だけの会談となった。知事からは、「理事長が2月2日に降格辞令を出した大川伸一医師を、今後も病院長として県の放射線治療医確保委員会に出席させること」「4月以降の放射線治療医の人事に理事長は口を出さないこと」の2点の指示があった。

私は「地方独立行政法人の理事長として、知事からの一般指揮監督を受けるつもりはありません」と言って、2つの指示を拒否した。知事から「指示を聞けないなら、罷免する」と言われ、私は、「知事が地方独立行政法人の理事長に一般指揮監督することは法律の趣旨に反すると考えます。また、私の言動は法令に基づいたものであり、罷免に該当しません。しかし、知事が罷免とおっしゃるなら、罷免で結構です」と答えたところ、知事から「罷免の手続を進める」との回答を得たので、退室した。

神奈川県はホームページで「地方独立行政法人の概要」と題したファイルを公開している。そこには地方独立行政法人の定義として「以下の事業を、効率的かつ効果的に行わせることを目的として県が設立する、県とは別の法人」とある。県が設立し、理事長の任命権と、理事長が非違行為をすれば知事が理事長を解任する。しかしながら、県とは別の法人とあるので、一般指揮監督権はない。

神奈川県「地方独立行政法人の概要」より(http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/46661.pdf

平成30年2月8日現在、解任の辞令は届いてないので、今も、私は法的に理事長である。