規制緩和や宅配ボックスなどの対策には限界も

物流運輸を巡る深刻な状況に対して、国も対策を講じてはいる。例えば国土交通省はかなり熱心にモーダルシフトを後押ししている。これは自動車などの小口輸送を鉄道などの大口輸送へと切り替えていこうとする動きだが、すでにその効果は限界に近いのではないだろうか。

参考になる数字として、国土交通省等によるモーダルシフト等推進官民協議会が2011年の段階で行った荷主へのアンケート調査がある。この中間とりまとめによると、自動車輸送のうち鉄道輸送に切り替えられるものが、そもそも0.23%しかなかった。鉄道輸送は、急な出荷の増減には対応しきれない。実際のデータを見ると、2015年までの4年間で自動車輸送が占める比率はすでに4%ポイント減っており、モーダルシフトによるこれ以上の効果はあまり期待できない状況だ。

そのほか、バス・タクシーの混載輸送といった規制緩和や宅配ボックスの普及によるラストワンマイルの工数軽減、幹線の自動運転化など、いくつかドライバーに対する需要減につながる要素はあるものの、われわれの分析では、いずれも大幅な需要減にはつながらないという結果となった。

例えば報道などでしばしば取り上げられている、宅配ボックスの設置だが、これは設置者側のインセンティブとなる要素がほとんどないことが、ネックになる。コンビニエンスストアへ宅配ロッカーを設置する場合、一台あたり約200万円のコストがかかる。自宅(戸建て)への宅配ボックスの設置費用は、当然、自己負担となる。こうした費用を考えると、宅配ロッカー・ボックスを設置するインセンティブは小さい。

コンビニエンスストアはすでに宅配荷物の預かり所として機能しているが、その手数料収入はごくわずかしかない。仮に国が設置費用の一部を補助したとしても、宅配ロッカーでの収益化は難しい。

再配達によるドライバーの負担が話題に上ることも多いが、われわれが思っているほど再配達されている荷物の割合は高くない。国土交通省の「物流を取り巻く現状について」によると、全体の2割程度だ。しかも、そのほとんどが2度目の配達で配り終えている。

仮に再配達を約半分の10%削減した場合でも、削れる労働時間は年間約3000万時間しかなく、それをドライバー数に換算すると、年間約1万人分の削減効果にしかつながらない計算になってしまう。

以上の要素を総合して考えると、やはりドライバーに対する需要は増える要素が圧倒的で、減る要素はあったとしても影響はごくわずかということになる。

高齢化などでドライバーは今後10年間で約11万人減る

一方の供給面を見てみよう。ここで大きな要素となるのはドライバーの高齢化だ。すでに高齢のドライバーも多いことから、今後、引退していくドライバーの数も相当数に上ることが予想される。

トラック運転手として働くためには、中型か大型の自動車免許を取得する必要がある。若い人にはハードルが高いうえ、低賃金や長時間労働など、労働環境は厳しく、なりたい人は減少している。大幅な賃金上昇は望めない環境にあることや、他業界でも進む人手不足の現状などを考えても、今後10年間で、ドライバーの数は約11万人減るだろう。

以上、需要面と供給面の双方から影響を細かく分析して総合すると、冒頭で申し上げたように、今後10年間で24万人ものドライバー不足が生じるという結果となった。

この深刻なドライバー不足を解消するため対策は、果たしてあるのだろうか。後編では、その「打ち手」について検討する。

森田章(もりた・あきら)
ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&マネージング・ディレクター。消費財・流通・小売・運輸を中心に、成長戦略、新規事業戦略、デジタルマーケティング、サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)のプロジェクトを手掛けている。特に物流、食品・飲料セクターの経験が豊富。【BCG運輸・旅行・交通サイト】https://www.bcg.com/ja-jp/industries/transportation-travel-tourism/default.aspx
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