「心」と「体」を巡る心脳問題

古代ギリシャ時代より心と体(脳)問題は、哲学・文学をふくめた当代の俊秀たちを魅了し、また苦しめたテーマでした。今でもはっきりとした答えが出たとは言えないのですが、大ざっぱには「心≫脳」「心≒脳」「心<脳」と考えてもいいかもしれません。つまり、心と脳はほとんど別物である。心とは脳のことである。脳の働きの一部が心である――という考えです。ここでは心脳問題には、これ以上深入りしません。

さて先ほどの答えは何でしょうか?

答えは、――「脳」に効いている(と考える)――です。

実際に薬物を投与する立場になると、脳の存在を無視して治療は始まりません。心というあいまいなものに効くといったスタンスでは、患者さんを混乱させ不安にさせるでしょう。この「脳」に効くお薬があなたの参った「心」を回復させるという理解しにくい関係を、何とか理解してもらうことが薬物療法の第一歩になります。

そこで私は、「あなたはさまざまな原因で、脳の神経の働きが不調になっていると考えられます。この薬はその不調を正常化する働きがあります。とりあえず疲れた脳を回復させましょう」

という「心≒脳」立場から説明をスタートし、処方を開始します。

この時は、「心」と言う言葉は棚上げにしておきます。

「とりあえずの薬物療法」を開始する

精神科に相談にこられる患者さんの心理的・社会的問題は複雑に入りこみ過ぎており、最初から短期間で解決するのは不可能に近いことが大部分を占めます。またほとんどの患者さんは激しい「あせり」に巻き込まれています。

そこで私は長い臨床の経験から「脳の神経の働きの不調は、あせりという言葉で表現される」と確信するに至り、何とかゆとりへととりあえずお薬をすすめるのです。これを私は自称「とりあえずの薬物療法(臨床)」と呼んでいます。