ネット通販の巨人・アマゾンがリアル店舗への展開を加速させています。2016年には無人コンビニ「アマゾン・ゴー」の展開を発表。17年には高級スーパーを137億ドルで買収しました。なぜこのタイミングなのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「ネット通販が確立していない最後の分野の『情報』を集めようとしている」と分析します――。(第1回、全3回)

※以下は、田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)の第2章「なぜ、アマゾンは『現実世界』に参入するのか」を再編集したものです。

なぜベゾスは「書籍」から事業を始めたのか

2016年後半に入り、アマゾンは無人コンビニ「アマゾン・ゴー」の展開を発表、2017年には高級スーパーマーケット「ホールフーズ」を137億ドルで買収しました。過去アマゾンがリアル店舗を出店した例は、シアトルやニューヨークなどでのリアル書店や、キンドル等の電子機器を置いたパイロットショップにとどまっていましたが、ここへきてリアル世界への進出を本格化させています。

田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)

これまでジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)は「明白な競争優位がない限り」リアル店舗、現実世界への本格的な進出はしないと明言してきました。

ならばなぜ、このタイミングで踏み切ったのでしょうか。それが第2章における最大の問題意識です。アマゾンが、単なる「ECとリアル店舗との融合」などという使い古された戦略をとるはずがありません。ベゾスの真意は、どこにあるのでしょうか。

下準備として、まずはアマゾンの事業構造を整理してみることにしましょう。創業するにあたって、ベゾスはまずオンラインで販売できそうなものをリストアップし、得意とする未来志向を発揮してリアルにイメージした結果として書籍を選択しました。書籍は食品や生活用品などと違い、どのお店でも全く同じものが買える、ネットショッピングが根付いていない時代にあって、顧客が安心して注文できる商品と考えたためです。

また本の世界には大手取次業者が存在し、彼らに注文すればどんな本もすぐに届けてもらえることから、大量の在庫を抱えるための巨大倉庫も少なくとも当初は不要でした。「ネット通販という市場において最初に定着する商品は書籍である」との確信のもと、その実現に向け必要な仕組みをリアルにイメージしたことがアマゾンの成功のきっかけになっているのです。

「アマゾンされる」という言葉も生まれた

結果、今では、アマゾンは「世界一の書店」として認知されています。しかし、改めて「アマゾンとは何の会社なのか」と問うたとき、それだけでは正答とはいえません。

なぜならアマゾンは、今やあらゆるものを売る「エブリシング・ストア」として成長し、さらにはストアという垣根を越えてあらゆる事業を展開する「エブリシング・カンパニー」としてのポジションを築きつつあるからです。その勢いは米国で「アマゾンされる」(to be amazoned)という言葉が生まれるほど。既存企業がアマゾンに顧客と利益を根こそぎ奪われる恐怖が伝わってきます。

序章でも詳しく述べたように、最近では、アマゾン効果(Amazon Effect)という言葉も注目されていますが、より重要なことは、これらの言葉の定義であるアマゾンの影響力そのものが進化し、脅威を増しているということなのです。