アマゾンは究極ともいえる利便性を提供してきました。赤字覚悟でシェアを拡大するため、競合は対抗できません。その結果、何が起きるか。アメリカでは従業員の賃金が抑圧されているという告発が相次いでいます。地元に根付いていた小売業者も駆逐されつつあります。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「顧客への熱い想いはうかがえるが、社会への責任についてほとんど言及がない」と指摘します――。(第3回、全3回)

※以下は、田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)の第7章「ベゾスは真の顧客第一主義者か、それとも利己主義者か」を再編集したものです。

「何を買うにもアマゾン」というユーザー

2017年10月時点で、アマゾンの時価総額は約4700億ドル、2016年12月期の売上高は約1360億ドルにのぼります。オンラインショッピング市場におけるシェアは46%、現在では米国でオンラインショッピングを楽しむ消費者のうち55%が、グーグルなどの検索エンジンを経ずに、直接アマゾンにアクセスしているという調査もあります。書籍に始まり、家電にファッション、そして生鮮食料品まで揃えようというのですから、「何を買うにもアマゾン」というユーザーは、年々増える一方です。

田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)

さらには、アマゾン・マーケットプレイス、アマゾン・プライム、独自の物流システムであるFBAに、無人コンビニ「アマゾン・ゴー」、音声認識アシスタント「アレクサ」を搭載したスピーカー「アマゾン・エコー」、そして、アマゾンをメガテックたらしめているクラウドサービスAWS。こうしたサービスを矢継ぎ早に投入することで、アマゾンはオンラインの小売企業にとどまることなく、人々の生活や商取引のあらゆる側面、すなわち経済全体のシェア獲得を進めています。

こうしたすべてのサービスの相乗効果によって、アマゾンは人々が経済活動をするさいに欠かすことのできないインフラとなりました。プラットフォームを標榜しているアマゾンですが、もはやインフラと表現したほうが適切だといえます。

「まるでアマゾンは要塞のようだ」

このインフラは、アマゾンが蓄積したビッグデータからくる優れたユーザー・エクスペリエンス、徹底した顧客第一主義によって、止むことなく改善されていき、ユーザーにとってますます捨てがたいものになっていくことでしょう。

もはや人々はアマゾンというインフラなしでは暮らせないかもしれません。私自身、書籍や雑貨をアマゾンばかりで購入する日が続くと、「まるでアマゾンは要塞のようだ」と、ふと感じることがあります。いったんアマゾンの要塞に足を踏み入れたら最後、消費者も、事業者も、競合事業までもが囲い込まれ、このアマゾンの要塞のなかであらゆる経済活動が完結する。より正しくは、それを余儀なくされる可能性があるのです。

アマゾンは、そのインフラによって究極ともいえる利便性をユーザーに提供してきました。しかし反面、アマゾンの要塞から疎外された産業、企業をスポイルし、新しい事業機会や成長機会を奪うという批判は、避けがたいものになっています。