一方で、企業にとっても、介護離職は大きな損失となるはずだ。このままの状況を放置しておけば、今後は、ますます貴重な人材を失いかねない。では、どうすればよいのか。

その糸口を探るべく、過去1年間(2016年)に親・義親が要介護認定されたと回答している正社員のうち、働き方を変えようと現在転職を検討している人と、していない人で、現在の働き方を比較してみた。その結果、労働時間が長いほど(図表3)、また、きちんと休日がとれていないほど、要介護認定されたときの転職意向が強まる傾向が確認できた。

目下、女性が出産・育児のライフイベントを経ても働き続けられる職場の環境づくりが進められている。実際、第1子出産前後の妻の就業継続率は2005~09年の29.0%から2010~14年の38.3%へと10%ポイント近く上昇している(国立社会保障・人口問題研究所2015)。今後、女性の就業率が高まれば高まるほど、親の介護を理由に離職男性の数が増えるかもしれないし、女性の退職リスクもより一層深刻なものになるだろう。

特別対応や、必要に応じるのではなく

企業は、親の介護が男女を問わず離職理由になりうることを認識したうえで、(これまでのように、出産・育児といった特別な理由をもつ人だけを対象にするのではなく)自社のすべてのひとを対象にこれまでの働き方を見直すことが重要になる。長時間労働の見直しはもちろん、だれもが有休をためらうことなく申請できる職場づくりは、介護休暇の取りやすさにもつながってくるだろう。

また、在宅勤務をしてよい人を選ぶ(在宅勤務の対象となる人を定義し、必要に応じて制度を適用する)という発想ではなく、だれもが、その働き方を選択できるようにする。労働時間についても、残業しなくてよい人を選ぶ(短時間勤務や、残業なし、の対象となる人を定義し、必要に応じて制度を適用する)という発想ではなく、組織全体の仕事のやり方を見直してみて、だれもが残業なしで定時に帰ることが当たり前の働き方を整備することが必要だ。

これらによって、出産・育児、介護に限らず、多様な背景をもつ個人が、特別対応を受けることで遠慮したり、評価を下げられたりすることなく、生き生きと働き続けられる環境が整うのだと思う。

※本稿は「日本の働き方を考える」(リクルートワークス研究所)に掲載したコラム(来るべき介護離職リスクに備えて)を改編したものである

萩原牧子(はぎはら・まきこ)
リクルートワークス研究所主任研究員/主任アナリスト。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年4月より現職。個人を対象とした調査設計を担当し、個人の就業選択やキャリアについて、データに基づいた分析、検証を行う。労働経済学・公共経済学専攻、専門社会調査士。