異色の「社長対談」が実現した。ともに愛知県名古屋市に本社を置くプリンター大手のブラザー工業と、喫茶店舗数で国内3位のコメダ珈琲店(コメダ)だ。事業内容も売り上げ規模もまったく違うが、名古屋企業らしい手堅い経営など、共通項もある。来年で創業110年のブラザーを率いる小池利和社長と、同50年のコメダを率いる臼井興胤社長が、ビジネスから生き様まで語り合った――。(前編、全2回)
ブラザー工業の小池利和社長(左)とコメダ珈琲店の臼井興胤社長(右)

喫茶業としては「スタバ」に勝ちたい

【小池】今日はご足労いただき、ありがとうございます。コメダの社長を前にして申し訳ないのですが、私は外であまりコーヒーを飲まないのです。23年半過ごした米国でもオフィスのコーヒーが中心で、スターバックスやマクドナルドに行く程度でした。米国はデカフェ(カフェイン抜きコーヒー)が多いけど、まだ日本は少ない。でもこの間、2度ほどコメダ珈琲店に行きました。ソファも座り心地がよく、新聞・雑誌も読み放題なのはいいですね。

【臼井】ありがとうございます。私はコメダの社長になって4年たちますが、創業者の加藤太郎さん(元社長・会長)が作り上げたビジネスモデルは本当に卓越したものだと思います。一言でいうと「居心地のよさ」を核にした商売です。加藤さんは「コメダは喫茶業だけど、本質は空間を売る“貸席業”」と言われました。たとえば郊外型の路面店では、大きな駐車場、ログハウス風の建物、木目を多くした内装、朝の時間帯は無料でつくモーニングサービスなど、全世代を対象にした店づくりをしています。社長として、そのバランスを崩さないのが使命だと思っています。

【小池】では、将来的にはスタバに対抗するとか。

【臼井】喫茶業としてはそうです。ただ、この顧客相手のビジネスはコーヒー店だけでなく、いろんな業態に挑戦できると思っています。まだ明確な具体像があるわけではありませんが、ブラザーが110年近い歴史の中で、業態を変えて事業拡大されたように、時代とともに進化や変身をしないと生き残れない。私はコメダが将来「もともと喫茶店だったのか」と思われる時代が来るかもしれないと思います。もちろん、スターバックスに負けたくない気持ちはあり、飲食や接客レベルをより高めて、日本の喫茶店のよさを訴求していきます。

【小池】今でこそブラザーは、世界40カ国以上に事業を展開していますが、企業として段階を踏んできた歴史があります。創業は1908年ですが、最初はミシンの修理で、名古屋中心の商売。34年に念願だったミシンの製造を始めた時に、創業者(安井)兄弟は、「日本ミシン製造」という社名にしました。その後、海外にミシンの輸出を始めたのは戦後の47年で、創業から40年近くかかっています。

【臼井】私どもはその段階。コメダ珈琲店の店舗数は770店近くになり、海外にも2店出店したところです。ブラザーが歩まれた道を一生懸命追いかけたいと思っています。

名古屋はインフラが整うから「保守的」に

――ブラザー工業もコメダも本社は名古屋市にあります。名古屋企業の特徴をどう感じていますか。

【小池】よく指摘されますが、名古屋企業はコンサバティブ(保守的)で手堅い一面があります。だから長寿企業も多い。創業100年を超える企業の多さは、東京都、大阪府、愛知県の順番だそうです。名古屋地区には繊維商社のように何百年も続く会社もあり、ブラザーは創業109年といっても、もっと歴史が長い会社がたくさんあります。

【臼井】私は愛媛県松山市で生まれて、主に東京で育ち、4年前に名古屋に赴任しました。よく「名古屋の人は外に出たがらない」と言いますが、赴任してすぐ「住み心地のよさ」がわかりました。まず、地元の人は気づいていませんが、名古屋の水はおいしい。それから道路が広い。大学も多いですし、就職先も困らない。トヨタ自動車やそのグループ企業、ブラザーもそうですがグローバル企業や、中小企業が多数ある。私の大学の先輩の河村たかし名古屋市長は「名古屋は何もない」と自虐的に言いますが、すごくインフラが整っていますね。それが保守的や手堅さにもつながり、不況になると名古屋企業が注目されます。

【小池】現在の愛知県で、グループ企業や下請け会社を含めると、県内の工業生産高の約6割を占めるのがトヨタ自動車です。企業としてはリスペクトしていますが、トヨタ=名古屋というのは個人的に少し違和感がある。というのは、私は愛知県一宮市の出身で、旧国名では「尾張」の人間。トヨタのある豊田市は「三河」ですから、“他国意識”があります(笑)。