取扱説明書兼保証書が付くシャープペンシル

シャープペンシルは学校や塾でノートを頻繁に取る中高生が主なターゲットであり、価格帯は100~500円程度が主流。高機能とはいえども3000円の製品となると、購入する層は限られてくるだろう、と同社は考えていた。

「高すぎる値付けは避けたかったんです。ただこの部品点数では、どうしても3000円にならざるを得なくなってきた。そうなるとターゲットはある程度絞られてくるだろうと考えました。最初は30~50代の文房具好きや、マニアックな男性にターゲットを特定し、そういう人たちが好みそうな、メカニックで重厚なデザインにしたんです」(杉山氏)

オレンズネロ。イタリア語で黒を意味する「ネロ」のネーミングに合わせてマットな黒のボディーになった。

イタリア語で黒を意味する『nero』のネーミングに合わせ、本体は同社が1985年に販売した「PG1000」(グラフ1000)と同じ、マットな黒いボディー。軸は1970年発のロングセラー「P325」や1982年発の製図用0.2mmシャープペンシル「PG2」(グラフシャープPG2)と同じ12角軸を採用。完全な円形軸でもなく、鉛筆と同じ六角でもない、同社の製図用シャープペンシルにみられる特徴的なデザインだ。箱も本体に合わせた黒を基調としており、取扱説明書兼保証書(1年間)が同梱されている。

2014年発売の先行商品「オレンズ」では、軸に「芯を出さないで書いてください」と大きく注意書きを貼っていた。

親切さもあえて排除。2014年に発売された「オレンズ」の軸には「芯を出さないで書いてください」と大きく赤字で書かれたシールが貼られていたが、「オレンズネロ」ではこのシールを貼らず、取扱説明書へ記載するのみにとどめた。このように「分かる人だけが買ってくれればいい」(田島氏)という思いを込め、想定していたターゲットに響かせるための仕掛けをちりばめた。確かに、モノにこだわるビジネスマンや、古くから同社の製品に親しんできた者たちの心をつかみそうだ。

ところが販売してみると実際には、当初予定していたターゲット層だけでなく、本来のシャープペンシルのメインユーザー層である中学生、高校生にも受け入れられたのである。

「最初は大人から攻めていって、だんだん年齢層が下がっていけばいいなあと思っていたんですが、最初から学生さんにも買っていただけて、結局他のシャープペンシルと購買層はさほど変わらなかった。高価格だから憧れるという面もあるようです。親御さんがお子さんのために購入するというパターンが多い気がしています」(同)

こだわりの戦略が逆に、世代を問わず文房具好きの心をくすぐる結果となった。加えて予想外のヒットの陰には「ここ7~8年の間に学生さん、特に女子たちの間で“細い文字できれいに書きたい”という風潮になってきているんです」(同)というニーズの高まりも影響しているようだ。

大人の男性が購入すると予想し、オレンズネロには取扱説明書 兼 保証書(1年間)が同梱されている。

高機能シャープペンシルの歴史

実は、ぺんてるはノック式シャープペンシルの祖である(1960年)。しかし、こうした“細い文字できれいに書きたい”という学生のニーズにいち早く応え、ヒットを飛ばしたのは他社だった。2008年に三菱鉛筆が0.5mm芯シャープペンシル「クルトガ」(定価500円)を発売して大ヒットしたのである。これは書くたびに芯が回転し常に芯のとがった箇所が紙に当たる、という機能を備えていた。クルトガのヒットに、ぺんてるは奮起する。

「もともと『シャープペンシルといえばぺんてる』という自負がありました。ですので『クルトガ』が市場を席巻している時は、うちとしてはショックだった。この『クルトガ』への対抗として、極細芯専用の『オレンズ』の開発が始まりました。うちは極細芯を作るのが得意です。0.2mmの芯でシャープペンシルが作れるなら、そもそもとがらせる必要がないだろう、と」(田島氏)

0.2mm芯を生産しているのは国内ではぺんてるだけ。また極細芯用シャープペンシル開発の実績もあった。世界初の0.2mmシャープペンシルとして1973年に発売された「PS1042」(スライド0.2)がそれだ。0.3mm用シャープペンシルとしても、さらに5年前の1968年に「MEC」(ぺんてるメカニカ)を発売していた。こうして同社の古くからの強みを盛り込んだ高機能シャープペンシル「オレンズ」が2014年に発売された。

そこから続けて「オレンズネロ」の開発へとつながっていったのは、芯の開発部隊とシャープペンシルの開発部隊、それぞれの技術を高め合った結果ともいえる。その勝負の場は、毎年7月に業界関係者向けに行われる「新製品発表会」だった。