「会社員なら社長を目指すのは当然」
今どきのキャリアをどう考えたらいいのか。失敗から学ぶことはたくさんあります。50歳のある「モーレツ社員」の話を紹介しましょう。彼の名前は服部タカシ(仮名)。口癖は「会社員なら社長を目指すのは当然」。そして「残業するヤツが偉い」です。
有名大学を卒業し、日本を代表する大企業B社に入社した彼は、入社式会場にいる1000名以上の同期を眺め、ニヤリと笑みを浮かべてこう思いました。
(まずはこいつらの中で、トップに立つことだな)
同期というライバルを前に、学生時代から体育会系で培ってきた闘争心に火がつきます。
競争でトップに立つには、働く時間でライバルを圧倒すること。そう考えた服部は、とにかく会社で働きました。夜10時前の退社なんて、上昇志向とやる気がない社員がすることであり、午前さまは当たり前。週に1~2回は徹夜です。そんな翌日でも定時出社する。周りはちゃんと見ているものだし、睡眠時間を削ってでも頑張って仕事を続けること自体に意味がある。彼はそう考えていたのです。
「団塊の世代」の上司も、彼と同様に「残業するヤツが偉いのは、当たり前だろ」という考えで、ウマも合いました。そんな服部への人事評価も高かったようです。30歳にして、同期の先陣を切って課長に昇進。部下も数人持つことになりました。部下にも当然ながら自分と同様の働き方を求めます。はるか遠くにある社長の椅子が、少しずつ見えてきました。当時はバブル崩壊のあと。峠が過ぎて景気は悪くなりつつあり、企業の淘汰が始まっていましたが、彼は「こんな時こそホンモノが輝き、生き残る」。そう思っていました。
同期は「上昇志向がない連中」のはずだったが……
そして現在。
50歳を過ぎた彼は部長になっています。世間一般の基準では、大企業B社の部長と言えば立派な立場です。しかし、社長を目指してきた彼には昇進が遅すぎて不満です。同期の中では、既に専務や副社長になった者もいます。彼にいわせれば、ライバルだった同期は「頑張ってこなかった、上昇志向がない連中」のはずでした。彼らより出世が遅かったのです。
たとえば同期の一人は地方の営業所でノンビリやってきて、服部に遅れること数年、30代後半に課長になったかと思ったら、すぐに部長に抜擢され、数年後に役員に昇進しました。またもう一人の同期は、仕事はこなしますが、土日はしっかり休みを取って旅行ざんまいです。しかしいつの間にか役員になっていました。次期社長はそんな彼らの中から選ばれるのは確実でしょう。服部が社長になる可能性は限りなくゼロです。
一方で入社した頃はピカピカに輝いていたB社は、この十年間で売り上げ半減。彼の目下の仕事は人員削減です。数十人いる部下から半数の退職候補者を選び、一人一人呼び出して、退職を勧告します。しかし応じる社員はほんの一部。「私はちゃんと仕事をしている。なぜだ?」と大声をあげる者。「老いた両親の介護がある。退職すると生活できない」と泣き出す者。そんな中でも、粛々と人員削減の仕事を進めなければなりません。精神的なタフさが売り物だった彼ですが、さすがに心身ともに消耗していきました。