8月4日、トヨタ自動車とマツダが資本提携を正式発表した。その内容は相互に約500億円ずつ株式を取得するという異例のものだった。これまでトヨタは、ダイハツやスバルの株式は一方的に取得しており、提携先に株式を取得させたことはない。なぜトヨタはマツダにだけ違う対応をとったのか。自動車ジャーナリストの池田直渡氏が考察する。
トヨタ自動車の豊田章男社長(左)と、マツダの小飼雅道社長(右)

8月4日金曜日夜。都内のホテルでトヨタとマツダによる緊急記者会見が開かれ、2年前から交渉が重ねられてきた提携の詳細がようやく明らかになった。この2社の提携には、どんな意味があるのか。一言で言えば、今回の提携は相互のブランド独自性を重んじながら前例の無い広く深い領域での協業を行うというもので、両社の強い危機感を基調にしたものだ。

過渡期にある世界の自動車メーカー

現在、自動車メーカーを巡る環境は厳しさを増している。すでに独仏英からは内燃機関(エンジンなど)を廃絶するかのような発表がされており、自動運転やコネクティッドカー(車車間通信)など、これまでのクルマの常識を打ち破る新たな技術革新も求められている。

世界最大手を競うトヨタは、巨大化ゆえの悩みを抱えていた。第一に意思決定速度の低下、第二に目的統一の困難さである。豊田章男社長はこれをはね返すべく、強いトヨタになるための布石を次々と打っている。

マツダは「2%の顧客に猛烈に支持されるブランド」を目指し、ここしばらくブランド価値経営を続けてきた。しかし、電動化や自動運転、コネクティッドカーなどの課題をクリアしていくにはリソースが足りない。

こうした相互の事情に鑑みつつ、それを越えるために今回の提携に至ったと考えて良い。

これをワイドショー的に、一方的な吸収合併や蹂躙(じゅうりん)と言う構図で見ると本質を見失う。相互のブランドを尊重する精神の上に築き上げられた提携なのだ。

トヨタが仰天した「アクセラ・ハイブリッド事件」

それを理解するためには、まずはそのスタート地点から話を始めなくてはならない。トヨタがマツダに注目したきっかけは、アクセラ・ハイブリッドによる衝撃的事件だ(参考:「トヨタとマツダが技術提携に至った"事件"」http://president.jp/articles/-/22041)。販売政策上どうしてもハイブリッドモデルが必要だったマツダだが、リソース的にそれを実現することが難しく、トヨタからハイブリッドシステムの供与を受けることになった。

アクセラ・ハイブリッド

ハイブリッド車はブレーキのチューニングが難しい。減速を行いながらエネルギー回生を行うことこそがハイブリッドのキモなので、できる限り電気的な回生ブレーキで減速を行う。しかし、それで全ての状況がカバーできるわけではないので、旧来の物理的ブレーキも共用する。この2種類のブレーキを協働させて減速を得るのだが、これが非常に難しい。ブレーキフィールが不自然になるのだ。

アクセラ・ハイブリッドの開発の中で、マツダは物理ブレーキのばねを作り直し、このフィールを向上させた。試乗して驚いたトヨタのエンジニアはそれをすぐさまトップに上げ、豊田章男社長自らが広島に赴いて試乗し、その優位を確認した。豊田社長はトヨタのクルマの走りに満足していなかった。以後「もっといいクルマづくり」を打ち出して行くのだが、そのきっかけのひとつとしてクルマ作りのあり方、あるいは「もっといいクルマ」の要素のひとつに気付いた原因がこのアクセラ・ハイブリッドである。名古屋に戻った豊田社長は、すぐさま提携の模索を指示し、それが2年後の提携交渉開始発表を経て、4年越しで今回の提携として結実するのである。