プリンター大手・ブラザー工業の小池利和社長は、社内向けのブログを書き始めて12年目になる。回数は1000回を突破。内容は事業とはほぼ関係ない。旅先の観光地、楽しんだ食事、外出先のドタバタなど、写真をふんだんに交えた軽妙なものだ。売上高6000億円、世界40カ国以上で事業を展開する企業のトップとしては、異例の取り組みだろう。小池社長は「社長もフツーの人だと知ってほしい」と話す。その狙いとは――。

掲載1000回を超えた「社長ブログ」

ブラザー工業の小池利和社長

2007年6月からブラザー工業を率いる小池利和社長は、26歳で渡米以来、23年半にわたり米国に駐在し、「テリー」の愛称で同社の北米事業を拡大してきた。日本に帰国したのは常務時代の05年4月。同年12月から社内向けに「テリーの徒然日記」というブログを始め、現在まで11年半も継続している。17年5月には連載1000回を超えた。

東証一部上場企業の経営トップとして多忙を極めるなか、なぜ、それほど社内の情報発信に力を注ぐのか。従業員はどう受け止めているのか。小池社長に聞いた。

週に3回、社内メッセージを発信

――大企業の経営者の中で、小池さんほど社内に向けた情報発信を続ける社長は珍しいと思います。なぜ、そこまで濃密なコミュニケーションを行うのでしょうか。

どんな国や業界であっても、ビジネスの基本はコミュニケーションだと思うからです。現在、私は毎週イントラネットで社長としての公式メッセージ「Message from Terry(テリーからのメッセージ)」を10カ国語で発信し、これとは別に週に2回、「テリーの徒然日記」を発信しています。公式メッセージが経営や会社の動向など固い内容なので、「徒然日記」では日常生活やプライベートなど、軟らかい内容で紹介してきました。これ以外に、会社の状況に応じて動画によるメッセージも発信します。

もともとブラザーは、家族的で自由闊達(かったつ)な雰囲気の会社です。私は1979年の入社ですが、当時から役員と一般社員の距離が近く、若造の身でありながら何度も役員の方に飲みに連れていってもらい、自宅に泊めてもらったこともあります。若手にもチャンスを与える企業風土で、「こういう仕事がしたい」と言えば実現させてくれました。そのおかげで、私も自分で手を挙げて米国に行くことができ、普通の社会人ではできないような多様な経験をすることができたのです。

そうした企業風土は会社が大きくなっても残したい。そこでブログでの発信を始めたのです。現在、ブラザーグループには連結で約3万7000人の従業員がいます。北米の子会社社長時代の従業員は数百人だったので、知らない人はいませんでしたが、この規模では全員の顔を覚えるのは不可能です。そこでできるだけ多くの人に、私のことを知ってもらおうと、自分の私生活や思いを伝えようと考えたのです。