実地調査で注意することは

実地調査の流れはこうだ。午前10時ピッタリにインターホンが鳴る。ドアを開けると、来る税務職員はほとんどの場合、2人である。詐欺ではないことを証明するため、最初に身分証が提示される。家に調査官を通すと、世間話から始まって、午前中はさまざまな質問を受ける。正午に休憩の後、午後1時からは、印鑑、通帳、権利証といったものの保管場所の案内を求められ、終了時に、事前調査でつかんだ内容をもとに浮かんだ疑問点が、質問として納税者に投げかけられる。

「実地調査」で必ずなされる質問のひとつに、「親族全員の所得状況」がある。全員の勤務先や住所地なども確認され、無職であるのに多額の預金口座を保有している親族が見つかった場合、「この預金は、名義が親族というだけで、実質、被相続人の預金(名義預金)なのではないか」という疑いがかけられる。そして、総合的に判断されて、被相続人の名義預金であるとされれば、追徴されてしまう。

また、「被相続人の入院日付と場所」「被相続人の認知症の有無」なども確認される。それによって、入院中、もしくは亡くなる直前に不明な出金があった場合、それは相続人への貸し付けと見なされ、追徴対象となる可能性がある。

また不思議なことに、調査官が「トイレを貸してほしい」と言ってくることがある。トイレの前にタオルを置いている家があるが、調査対象はそれである。銀行や証券会社の名称がタオルに印字されていて、それが申告書に記載されていない金融機関名だったりすると、「隠し口座があるのではないか」と疑いがかけられることになってしまう。

税務調査には「強制調査」と「任意調査」の2種類があるが、強制調査はマルサがするもので、裁判所の捜査令状を取り、刑事事件として調査に入る。この場合、調査に入った家の引き出しを勝手に開けても法律的に許される。一方、私たちが通常経験する税務調査は任意調査であり、調査は「質問検査権」という権利に基づいて行われる。この場合、許可なく引き出しを開けたり、バッグの中身を見たりということは認められていない。万が一、調査官のそうした行為を目撃した場合は、その場で厳重注意し、税務署にも抗議しよう。